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「まず洋上慰霊を」元島民の得能さん、根室振興局で講演

 根室振興局は、北方領土問題について理解を深めてもらおうと職員55人を対象に、元島民の得能宏さん(89)の体験を聞く講演会を開いた。得能さんは引き揚げ時の苦労やビザなし交流などについて話したうえで、「(北方領土への)墓参の再開が一番だが、今の(日ロ間の)状況では、少しでも島に近づく洋上慰霊が必要」と訴えた。(北海道新聞根室版2023/7/14)

 講演は5日に行われた。得能さんは色丹島出身で、13歳の時に樺太経由で根室に引き揚げた。引き揚げ時の様子について「ホルムスク(真岡)の収容先になった小学校は、衛生状態が悪く、食料もままならなかった。姉の2歳になる長女は亡くなったが、姉は『死んだら海に流される』と考え、亡くなった子を負ぶったまま船に乗っていた」と声を震わせた。

 得能さんは色丹島について「風光明媚(めいび)でとてもきれいな島。気持ちはいつも色丹にある」と語った。ビザなし交流で現島民のロシア人男性と「親子の契り」を交わし、今も男性が墓の手入れをしているエピソードなども紹介した。

 ロシアによるウクライナ侵攻により墓参など四島交流事業の見通しが立っていないことに触れ、「もう4年も島に行けていない。次は孫を連れて墓前で話をしたい」と話した。(先川ひとみ)