北方領土の話題と最新事情

北方領土の今を伝えるニュースや島の最新事情などを紹介しています。

陸揚庫の保存方法、ガラス「覆い屋」方式で 根室市の専門家会議

 終戦直後まで北方領土国後島根室をつないでいた根室市の通信用海底ケーブルの陸揚げ施設「根室国後間海底電信線陸揚(りくあげ)施設」(通称・陸揚庫)の保存・活用方法について、同市の専門家会議は25日、全体を透明な特殊ガラスで囲う「覆い屋」方式で保存することを決めた。この日は、現在の位置で(1)現状維持保存(2)終戦時の姿で復元保存(3)覆い屋――の3案について議論した。長谷川直司・国土交通省国土技術政策総合研究所シニアフェローは覆い屋方式について「岩手県平泉町中尊寺金色堂は、現在はコンクリートの『さや堂』で覆われているが、江戸時代以前にも木製のさや堂で覆われていた。旧さや堂は移転され、重要文化財にも指定されている」と述べ、保存手法として評価。完成すれば「透明なガラスに覆われた国内初の文化財になる」とも強調した。(毎日新聞北海道版 2023/3/26)

 ソ連軍の侵攻と占領をリアルタイムに伝えた歴史の証人であり、終戦まで根室北方領土をつないでいた通信用ケーブルの中継施設「根室国後間海底電信線陸揚施設」(通称・陸揚庫)の保存と活用を考える分科会は25日、最終の会合を開いた。気象などの外部要因を遮断するため施設に覆いを掛け、94年の時間経過をとどめる現状保存を当面の成案とし、報告書として石垣雅敏市長へ手交する。(釧路新聞2023/3/26)

 

廃墟と化した旧王子製紙真岡工場 裁判所が市に立ち入り禁止措置を命じる

サハリン地方裁判所は、廃墟となっているホルムスク(旧真岡)市の旧王子製紙真岡工場への立ち入りを禁止するよう市当局に命じる判決を下した。工場は1919年に建てられ、現在は1925年と1965年に建てられた建物と民間防衛施設が残っているが、所有していた企業は2005年に清算された。廃墟と化した建物は10代の若者の遊び場となっており、しばしば事故も起きていた。同地区の検察当局は市に対して、住民の安全のため旧製紙工場敷地への立ち入りを禁止する措置を取るよう求める訴訟を起こし、一審で勝訴。これを不服とした市が控訴していたが、裁判所は市の不作為は違法として、所有者がいない建物を登録した上で、立ち入りを禁止する対策を講じるよう命じた。(askh online 2023/3/27)

 

国後島・古釜布 暴風で壁に穴が開いたプール 30日から利用再開

昨年12月に国後島を襲った暴風で壁に穴が開き、閉鎖されていたユジノクリリスク(古釜布)のアファリーナスポーツセンターが30日から使用できるようになる。南クリル地区のゴミレフスキー市長がSNSで発表した。暴風が襲ったのは12月23日で、スポーツセンター内のプールがある建物の壁の一部が吹き飛ばされた。(sakh online 2023/3/28)

 

国後島・東沸湖のタンチョウ 子別れと求愛の儀式

クリル自然保護区のスタッフが仕掛けたセンサー付きカメラが、親鳥が縄張りから成長した子供を追い払う瞬間をとらえた。国後島ペスチノエ湖畔(東沸湖)で2度目の冬を迎えたタンチョウのつがい。3月13日に、昨年春に生まれ、大きくなった子供を追い出して、繁殖の季節に入った。子別れの儀式は昨年の4月2日より、随分と早かった。2022年、国後島南部では5組のつがいが確認された。このうち2組が営巣(ペスチノエ湖とペスロフスキー半島=ケラムイ崎)したが、ヒナを成長させることができたのはペスチノエ湖周辺で営巣したカップルだけだった。2021年には5組のうち2組が営巣し1羽が孵化。2020年には7組が確認され、うち3組が営巣、ヒナを孵化させたのは2組だった。2013年には一度に2羽のヒナを育てたカップルもいた。ペスチノエ湖周辺で営巣するカップルの姿はセルノボツク川(東沸川)の河口近くで見かけるが、大型トラックが行きかうアスファルト道路が近くにあるため、タンチョウにとっては危険地帯だ。近隣住民は車と衝突して死んだ鳥や動物の死体をよく見かけている。ペスロフスキー半島では、営巣を成功させるため毎年4月15日から「静寂期間」が設けられている。半島は保護区の一部であり、狩猟や、犬の訓練、団体観光、殺虫剤の私用が禁止されている。(クリル自然保護区ウエブサイト2023/3/27)

https://youtu.be/UtAfB9eiCqg?t=40

https://youtu.be/lhJHjGWpgNU?t=1

右端の幼鳥を縄張りから追い払う親鳥

子別れの後、新たな子づくりに向けて求愛ダンス

バレエのカブリオールのようなタンチョウのジャンプ。アレクサンドル・ヤコブレフ

太平洋側の海岸で。両親と別れたばかりの若いタンチョウ。2023年5月15日。アレクサンドル・ヤコブレフ

親鳥から追われた若いタンチョウはペスチノエ湖の湿地帯にある、親の縄張り近くで暮らしている。アレクサンドル・ヤコブレフ

ペスロフスキー半島のカップル。2017年に生まれた「ホワイト」の愛称をもつメスにはタグが付いている。成鳥にタグをつけたのは世界で初めてだった。ロシアと日本の研究者は彼女を注意深く観察している。

「早く北方領土へ行けるようにして」日ロ交渉停止1年、元島民らの思いは

 ロシアのウクライナ侵攻を受けた日本の対ロ制裁に反発し、ロシア政府が北方領土返還を含む日ロ平和条約交渉とビザなし交流、自由訪問を停止して21日で1年。根室釧路管内の元島民や交流に携わってきた人たちは返還交渉や交流再開の展望が描けない中、悲痛な思いを胸に1年を過ごした。関係者3人に思いを聞いた。(北海道新聞釧路版2023/3/21)

■早く訪れられるように 歯舞群島多楽島元島民・高橋絹江さん(87)

 「あんなにきれいな島を忘れることはできない。ロシアとの交渉を再開してほしい」。釧路町に住む歯舞群島多楽島元島民の高橋絹江さん(87)は、故郷を思い、語った。

 ロシアが北方領土返還交渉を含む日ロ平和条約締結交渉を凍結して1年。ロシアのウクライナ侵攻の収束が見通せない状況だからこそ、強く思う。

 1945年、10歳で終戦を迎えた。多楽島に上陸した旧ソ連軍から逃れるため、両親のコンブ漁用の船で着の身着のままに近い状態で島を脱出した。「2~3年で島に帰れると思っていた。島がいまだに返らないとは」

 一緒に逃げてきた元島民は毎年誰かが亡くなる。墓参で多楽島を訪れたときの写真を眺め、「私は島を知る最後の世代。返還を願うとともに、早く島を訪れられるようにしてほしい」と訴えた。(高橋義英)

■涙が出るほどさみしい 国後島泊村元島民・田畑クニさん(87)

 国後島泊村元島民で標津町に住む田畑クニさん(87)は「しばらくは国後へ行けないな」と、遠くを見つめてつぶやいた。

 日ロ関係悪化により、交流の再開、四島の返還交渉が見通せない現状に心を痛める。「何歳になっても故郷へ行きたい。交流が止まってしまい、涙が出るほどさみしい」

 ビザなし交流には10回以上参加し、国後島古釜布のロシア人宅に泊まり、もてなしを受けた。「ジャガイモなどを食べ、レコードをかけて一緒に踊りを踊った。今でも目に浮かぶよ」と交流を振り返る。

 標津町川北の自宅にもホームビジットでロシア人の女性を泊めた。娘の赤い振り袖を着せ、インスタントカメラで写真を撮って贈った。「なかなか着物を脱ぎたがらないほど気に入ってくれてねえ」と懐かしみ、今はただ、平和が訪れることを願っている。(森朱里)

■交流の糸切れぬか不安 交流団体「たんぽぽ」代表・本田幹子さん(65)

 「顔を合わせられない期間が長くなり、交流の糸が切れてしまわないか不安だ」。根室市民による日ロ交流団体「ビザなしサポーターズ たんぽぽ」代表の本田幹子さん(65)は肩を落とす。

 歯舞群島志発島の元島民2世。ビザなし渡航で2019年までに20回以上四島へ。家族ぐるみのつきあいのロシア人もいる。新型コロナウイルスの影響でビザなし渡航ができなかった21年も、色丹島のロシア島民とオンライン交流会を実施。接点を持ってきた。

 だが、ビザなし交流、自由訪問の合意の中断から1年たち、オンライン上のつながりも途絶えた。「もう日本と関わる必要はない」と考えるロシア人が増えることを危惧している。

 本田さんは「SNS(交流サイト)で近況を伝え合うことさえできない状況がこれからも続くと思うと、悲しい」と嘆いた。(川口大地)

 

北方領土問題啓発で高校部活動を支援 根室振興局

 【根室根室振興局は23日、北方領土問題啓発のため管内の高校部活動を支援する「Bタスク」の会議を開いた。会議では、根室高の部活動「北方領土根室研究会(北方研)」を核に、管内の高校が連携して啓発活動を行う「合同部活動」の試験実施を2024年度に始めるため、関係機関が準備することを決めた。北海道新聞根室版2023/3/24)

 「合同部活動」は、運動部などで部員数がそろわない学校が他校と合同チームを構成する時と同様の考え方で、複数校の生徒が一緒に小中学生などへの北方領土関連の出前講座を行うことを想定している。

 新年度は、合同部活動に向け根室高の北方研所属生徒による他校生への出前講座を5月から実施。活動内容を伝える。秋にはオンラインで各校をつなぎ北方領土に関する勉強会を開き、24年度の合同部活動に向けた具体的な準備を進める。

 振興局による新年度からの支援として、これまで教員の自家用車や公共交通機関に限られていた出前講座などの移動手段に、振興局の領土問題啓発用マイクロバスも活用できるようにした。休日に引率する教職員の負担を軽減するため、振興局職員による代行も引き続き検討していく。

 会議には振興局、根室高、根室教育局から11人が出席。岡嶋秀典振興局長は「返還運動の担い手育成に向けた基盤作りを新年度以降も進めていきたい」と話した。(川口大地)

 

専門家会議「旧ソ連侵攻の“証人”」 根室の陸揚庫「覆屋」で保存案 領土返還のシンボルに 

根室終戦直後まで根室北方領土国後島をつないだ海底電信線の中継施設「陸揚庫」に関し、根室市の専門家会議分科会が25日、保存と活用に関する報告書案をまとめた。北方領土関連の歴史的建造物である点を考慮し、次の世代に領土返還運動を引き継ぐ「物言わぬ語り部」としてシンボル的に保存・活用する意義を強調。特殊なガラスなどの建築物(覆屋)で囲う保存方法を市に提言する方向になった。(北海道新聞釧路根室版2023/3/26)

 報告書案では、国登録有形文化財の陸揚庫の価値として、終戦後の旧ソ連軍による北方領土侵攻と占領をリアルタイムで本土に伝えた「歴史の証人」としての存在を挙げた。老朽化の現状が高齢化した元島民の姿と重なるため、北方領土返還運動継承のシンボル的な役割もあるとした。建築的側面からは、造られた昭和初期の先端的なデザインや技術が使われ、当時の建築思想が見て取れると指摘した。

 市はこれまで保存方法として、透明なガラスなどの建築物で囲う覆屋案、現状のまま補修する案、過去の姿に復元する案の3案を示していた。専門家会議の分科会は、劣化を止め、現地保存するためには覆屋案が最適と市に提案することで一致した。過去の姿に復元する案は建設時の詳細な資料が見つかっていないため将来の課題とした。

 北海道博物館の右代啓視学芸員は「現状の場所と姿で保存し、創建時の姿は模型などで示しても良い。ガイド機能も必要」とした。根室市史編さん委員の桐沢国男さんは「まず劣化を防ぎ、復元のあり方などは今後検討すべきだ」とした。市は専門家会議分科会の報告・提案を尊重しつつ保存方針を決定する。新年度予算には保存に向けた基本設計費約400万円を計上した。

 市は陸揚庫の歴史や背景を説明するPR動画を作成、4月中に公開する。4月22日には根室市内で陸揚庫のシンポジウムも開く予定。(松本創一)