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日ソ混住時代小説「舟」思い語る ロシア人作家「今こそ必要」

 日ソ混住時代の北方領土歯舞群島志発島で発生した実際の遭難事故を基にロシア人作家が書いた小説「舟北方領土で起きた日本人とロシア人の物語」の出版を前に、作家と翻訳者が北海道根室で作品への思いを語った。(釧路新聞2024/7/5)

 著書はロシア人脚本家で映画プロデューサーのマイケル・ヤングさん(63)=ペンネーム=。翻訳は同志社大学講師の樫本真奈美さん(横浜市在住)。

 ウェブ会議システムで会見したヤングさんは「日本に帰れなくなるかもしれないのに外国人の子供を助けた。驚くべき行為で私にはできないと思う。人間愛に貫かれたこのエピソードを多くの人に伝えたいと思った」と出版の経緯を説明。さらに「多くのロシア人が共有すべき記憶であり、日本人がどういう人たちなのかを示す大切なエピソードだ」と述べ、「(日ロの)国家間の状況が難しい今だからこそ必要なエピソードだ」とも語った。

 エピソードの裏付けにも奔走した翻訳者の樫本さんは「この話が広まることによって元島民やご家族の話が新たに発掘されるかもしれない。多くの人に手に取ってほしい」と話した。

 時は旧ソ連軍の北方領土侵攻から2年が経過した混住時代。1947年10月、「日本人島民強制退去の日」に志発島相泊に入植していたソ連人の子供が学校帰りに魚箱で作った「箱船」に乗り遭難。天候が悪化する中、ソ連側の捜索は難航し、四島の海を熟知した1人の日本人漁師に救助を依頼。引き揚げ船に乗り遅れれば日本に帰れない可能性もある中、漁師は船を出し10歳前後の子供4人とイヌ1匹を無事救助した。

 ヤングさんの友人の母親(遭難当時6歳、故人)が助けられた子供の1人で、生前「助けてくれた日本人を探してほしい。その人が亡くなっていても家族にお礼が言いたい」と話していたそうで、その友人も2020年に亡くなっており、遺志を引き継いだ形だ。

 「舟」(皓星社、四六判320㌻、税別2300円)は10日、全国で発売される。