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終戦後の北方四島、日ロの友情描く ロシア人脚本家が小説出版へ

 ロシア人が、北方領土歯舞群島志発島での終戦後の「日ロ混住」時代を描いた小説「舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語」が、7月に皓星社(東京)から出版される。当時のロシア人島民の証言を基に、海に流されたロシア人の子どもたちを日本人が救った逸話などを描いた。北方四島をテーマにしたロシア人の小説は珍しく、関係者は「元島民らにも読んでほしい」と話す。(北海道新聞デジタル2024/6/11)

 著者は脚本家で50代のマイケル・ヤングさん=ペンネーム=。終戦後に母親が志発島で生活した友人アンドレイさん(故人)から聞き取った話を基に、複数の日本人とロシア人島民の視点で、旧ソ連占領下で日本人が引き揚げるまでの物語を描いた。ロシア語講師の樫本真奈美さん=横浜市=が日本語に翻訳した。

 物語の核になるのが、1947年にアンドレイさんの母親ら島の子ども4人が乗った小舟が沖に流された時に、その日に強制送還される予定だった日本人漁師が島にとどまって救出したというエピソード。アンドレイさんから話を聞いたヤングさんが感銘を受け、執筆を決めたという。

 救出劇について公的な記録は残っていないが、当時9歳ぐらいで船に乗っていたというアンドレイさんの叔母(極東在住)も当時の状況などを証言。本では、樫本さんがアンドレイさんの叔母にオンラインで、救出時の様子や日ロの混住生活などについて聞き取った一問一答も収録している。

 ソ連当局と日本人島民のはざまで苦悩するロシア人通訳の姿なども描く。ヤングさんは島について書かれた日本の資料も読み込み、隣接地域の交流の重要性にも触れている。

 子どもたちを救ったという日本人漁師のその後の行方は不明で、ヤングさんは樫本さんを通じて「この漁師や子孫を知る人が現れるのを期待している。小説では人間の決断や愛を描きたかった」とコメント。樫本さんは「敵国同士のような状況でも人間は信頼関係を築けることが描かれており、元島民の方々にもぜひ読んでほしい」と話す。

 四六判320ページで税別2300円。7月10日に全国の書店で発売予定。英語版の出版も計画しており、将来的には映画化も目指しているという。