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北方四島ビザなし専用船「えとぴりか」 利用機会激減、新たな活用模索

 ロシアのウクライナ侵攻で、北方四島ビザなし渡航の再開の見通しがたたない中、北方領土問題対策協会(北対協、東京)が四島と往来するためのチャーター船「えとぴりか」(1124トン、定員84人)の新たな活用策を模索している。利用機会が大幅に減ったが年数億円の維持費がかかり、さらに中断が長期化すれば「無駄遣い」との批判が出かねないからだ。事業再開に備えて船は維持したい考えで、領土返還運動の啓発を兼ね各地での一般公開などを始めている。(北海道新聞2024/1/29)

 えとぴりかは、政府の委託を受け東京の海運業者が約29億円かけて建造。独立行政法人の北対協が業者とチャーター契約を結び、2012年からビザなし渡航専用船として運航を始めた。例年5~9月ごろにかけて、元島民らを乗せて根室港と北方四島との間を年30回以上往来してきた。

 だが、ビザなし渡航は20~21年はコロナ禍、22年以降はウクライナ侵攻の影響で、4年連続の全面中止が続く。えとぴりかは22~23年は、元島民らが船上から祖先の慰霊を行う「洋上慰霊」で利用されたが、年10回程度。利用機会が減り、広島にあるドックに停泊する期間が長くなっている。

 渡航事業の有無にかかわらず、えとぴりかの維持には「固定費」がかかる。内閣府北方対策本部によると、北対協が業者に支払うチャーター料約2億1千万円のほか、船員の人件費、燃料代など年間計約3億3千万円。ウクライナ侵攻の長期化で事業再開のめどは立たず、政府関係者は「このままだと無駄遣いとの批判が出かねない」懸念する。

 このため北対協は昨年10、11月に横浜港、神戸港別府港大分県)で初めて船の一般公開を実施。合計約6千人が訪れ、船内で北方四島周辺の海図などを見学し、船員からレーダーなど機器の説明を受けた。領土返還運動を啓発するパネルも展示された。

 また学校教育の場で北方領土学習を積極的に取り入れてもらおうと、10月には道内外の教育委員会関係者約60人を乗せ、根室沖を航行。北対協の担当者は「今後も活用策を考え、啓発活動や国民の北方領土への理解に役立てたい」と、今年も一般公開などでの活用を視野に入れている。

 北対協が業者と結んだチャーター契約は25年度まで。契約を延長するかは現時点で未定だが、担当者は「日ロ関係がどんな状況でも、北方領土渡航できる体制は常に用意しないといけない」と船の意義を強調。えとぴりかの活用の場を増やし、必要性に理解を得たい思惑もありそうだ。

 元島民も、船の行方に注目する。これまで20回以上乗船した色丹島出身の得能宏さん(89)=根室市=は「えとぴりかは北方領土返還運動のシンボル。渡航事業が出来なくても、積極的に活用し、領土問題解決の機運を高めてほしい。使わないのはもったいない」と話す。(今井裕紀)