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北方四島安全操業 出漁なき1年 ロシア協議拒否で初、24年も見通せず

 日ロ政府間の協定に基づき、1998年から北方四島周辺海域で日本漁船が行ってきた安全操業は、初めて出漁できないまま1年を終える。ロシアはウクライナ侵攻に制裁を科した日本政府に反発し、実施に向けた協議に応じない構えで、来年も再開の見通しはたたない。根室管内の漁業者は四島周辺の漁を諦め、競争が激しい根室半島付近での操業に切り替えざるを得ない状況で、国に支援拡充を求める声も出ている。(北海道新聞デジタル2023/12/29)

 「早期に実施できるよう調整しているが、現時点で(ロシア側の)肯定的な反応は得られていない」。上川陽子外相は今年最後となった26日の定例会見で、安全操業の見通しが立たない現状を改めて説明した。

 安全操業は1998年の政府間協定に基づき、四島周辺のロシア主張領海内で日本漁船の操業を認める枠組み。例年、根室拠点のタコ空釣り縄漁が10月~翌年1月、羅臼拠点のスケソウダラ刺し網漁とホッケ刺し網漁がそれぞれ1月~3月、9月~12月に行われてきた。

 毎年の操業条件などは前年末までに日ロ間の政府間協議と民間交渉で決めてきたが、昨年は2月に始まったウクライナ侵攻による関係悪化で、交渉に入れないまま越年。ロシア外務省は今年1月、岸田文雄政権の対ロ制裁を理由に、政府間協議に応じない方針を表明し、交渉できない状況が続いている。

 22年は、21年末に交渉が妥結していたため、侵攻後も時期に遅れは出たものの出漁できたが、23年は不可能になった。このままでは来年も四島周辺での操業は困難となる。

 安全操業による四島周辺の水揚げは、タコが21年は134トン、22年は8・7トン。混獲を含むスケソウダラが21年211トン、22年159トン、ホッケは21年473トン、22年305トンだった。今年はいずれもゼロのため、多くの漁業者が日ロ中間ラインの北海道本島側の前浜での操業を余儀なくされている。

 四島周辺の安全操業に従事してきた根室市内のタコ空釣り縄漁の漁業者は「今年は11月から前浜で漁を始めたが、漁獲はかなり少ない」。別の漁業者は「前浜はいろいろな魚種を狙う船で混み合い、漁場が限られる」と話した。羅臼漁協の萬屋昭洋組合長は「各船は、いつでも安全操業の枠組みで四島周辺に出漁できるよう、通常の前浜漁よりも従業員を多く雇い続けている」として、船主の負担が増していると指摘した。

 政府は今年、漁業者が四島周辺から漁場を変えて操業する経費の一部を操業日数に応じて支払う支援事業を始めたが、根室のベテラン漁業者は「政府の支援はすずめの涙ほどで、四島に出られない穴埋めにはならない」と話す。政府間の対立に起因する不利益を被っているだけに、関係者からは補償を求める声もある。

 だが、坂本哲志農水相は26日の会見で「漁場転換の取り組みに必要な経費を支援しており、引き続き必要な支援を行っていきたい」と述べるにとどめ、支援の拡充や補償には言及していない。鈴木直道知事は27日の記者会見で「(国の)支援が継続されていくと考えている。安全操業の一日も早い実現に向け、国に対して粘り強く働きかけをしていきたい」と述べた。(先川ひとみ、森朱里)

北方四島周辺海域に出漁できず、前浜の操業に切り替えた根室のタコ空釣り縄船