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漁業者落胆、先行きに不安 ロシア側の強硬姿勢で誤算 四島安全操業交渉凍結

 北方四島周辺海域で日本漁船が行う今年の安全操業を巡り、ロシアが政府間交渉に応じない方針を伝えたことで、当面の操業が困難となった根室管内の漁業者に落胆が広がった。日ロ双方が四島の管轄権に触れない形で行われる安全操業は両国の漁業協力の中で最も政治的な枠組みで、ロシアのウクライナ侵攻で悪化した両国関係が影響した。交渉入りを楽観視していた日本政府にとっては誤算とみられ、漁業者からは先行きを不安視する声が上がった。(北海道新聞2023/1/21)

 「1月は既に諦めていたが、交渉が凍結され10月以降もだめかもしれないと思うと本当に残念」。根室のタコ空釣り縄漁船の船主は21日、肩を落とした。

 歯舞群島色丹島周辺で行われる安全操業のタコ漁は例年10月半ば~翌年1月末が漁期で、根室市内の8隻が担ってきた。タコ漁は根室沿岸でも行われるが、「四島周辺海域の方が資源がある」(漁業者)と重視する声は多い。今季はしけなどで出漁が遅れ、水揚げは昨年末の1回のみで、漁獲は昨季の1割に満たない7・6トンにとどまる。今季の操業が断念に追い込まれたことへの失望は大きい。

 国後島周辺で例年3月半ばまで漁期となる安全操業のスケソウダラ刺し網漁は、羅臼漁協の冬季の水揚げの柱だ。冬は海が荒れて流氷も到来するため、漁が可能な期間は実質1月~2月上旬。今季の操業が厳しい状況となり、漁業者の一人は「見通しは何も聞いていない。話せることはない」と、口をつぐんだ。

 1998年の政府間協定に基づく安全操業は、ロシアが自国の領海内と主張する四島周辺の海域で、日本漁船に操業を認める枠組みだ。世界でも珍しい協定で、日本政府は「北方領土での日本の『特別な地位』を示す」(政府関係者)として重視。例年は、年末までに翌年の操業条件を決める政府間の交渉が行われ、数日で妥結していた。

 しかし昨年2月にウクライナに侵攻したロシアに対し、日本は先進7カ国(G7)で足並みをそろえて経済制裁を発動。日本を「非友好国」に指定したロシア側では、昨年秋ごろの段階から政府や議会のほかサハリン州で、日本漁船が四島周辺海域で操業することに反発が出ていたとされる。

 今年の操業条件について日本側は昨年末までの決着を目指したが、ロシア側が交渉に応じないまま初めて越年。ただ、ロシアの侵攻以降も日ロの漁業協力の枠組みは維持されてきたこともあり、日本側では今月半ばの段階でも「金が欲しいロシアにとって、漁業交渉はメリットがある」(官邸筋)と楽観視する声が漏れていた。ロシア側の厳しい姿勢を十分把握できていなかった可能性がある。

 日本側関係者によると、ロシア側は現時点で安全操業の政府間交渉に応じない一方、協定の枠組みは維持する考えを伝えたという。羅臼漁協の萬屋昭洋組合長は「秋の漁に希望をつなぎたい」と、早期の交渉入りを願った。

 ロシア側は、現時点では安全操業以外も含め日ロの漁業協定については破棄しない構えとみられる。ただ、根室管内の漁業者からは、4月に控える日本200カイリ内のサケ・マス漁や、6月の北方領土貝殻島周辺のコンブ漁を巡る日ロ交渉などへの影響を懸念する声も出始めている。(森朱里、川口大地、荒谷健一郎)

<ことば>北方四島周辺の安全操業協定 日ロ両国の「善隣関係の発展及び強化の促進」を目的に1998年2月に締結した政府間協定に基づき、四島周辺のロシア主張領海内で日本漁船の操業を認める枠組み。操業隻数やロシア側に支払う資源保護協力金など具体的な操業条件については、例年秋ごろに政府間交渉と同時に民間交渉を行い、翌年分を決定する。2022年分は協力金2130万円などを支払うことで妥結している。日ロ両国の漁業協力はこのほか、双方の200カイリ水域内でのサケ・マス漁と地先沖合漁業、貝殻島周辺コンブ漁の三つがある。