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ウクライナ侵攻1年 元島民や漁業者、募る苦悩 領土交渉、四島操業見通せず

 ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって、24日で1年となった。1年間で日ロ対立は深刻化。北方領土交渉やビザなし渡航は途絶えたままになり、四島周辺での漁業にも影響している。北方領土に隣接する根室釧路管内の元島民や漁業者たちは情勢の安定化を祈りながら1年間を過ごしたが、今も先行きは見えず苦悩が深まっている。(北海道新聞2023/2/25)

 「ロシアもウクライナも停戦する気配がない。その間に元島民たちは一人ずつ亡くなっていく」。歯舞群島水晶島出身の本村代さん(78)=根室市=は嘆く。

 1945年の終戦時に1万7291人いた元島民は昨年末で5332人に減少。昨年だけで200人が亡くなった。一方で、ロシア側は北方領土へのビザなし渡航のうち自由訪問とビザなし交流の政府間合意を破棄。元島民たちは望郷の念を募らせる。

 本村さんが生まれた水晶島西部のボッキゼンベ地区は納沙布岬から7キロ。岬からはこの地区を見渡せる。「見えるからこそ、行けないのが切ない。早く戦争が終わり、島を訪れられる日が来てほしい」と祈った。

 国後島元島民2世で千島歯舞諸島居住者連盟釧路支部の堀江則男支部長(68)は「領土交渉が止まってビザなしも中断し、若い世代への啓発活動はもっと難しくなる」と頭を悩ませる。

 釧路支部では昨年4月以降、計17人が退会。ビザなし渡航中断の影響もあったという。堀江さん自身、ビザなし渡航で島を訪れて領土問題への思いを強くしてきただけに「ロシア側が拒否していない墓参だけがいちるの望み。政府には、渡航の再開に向けてロシアと話し合いを進める姿勢を見せてほしい」と強く求めた。

 漁業者たちも、ウクライナ情勢に翻弄(ほんろう)されている。

 昨年は日ロ交渉の遅れにより4月の日本200カイリ内のサケ・マス流し網漁と6月の貝殻島コンブ漁の出漁がそれぞれ約3週間遅れた。四島周辺でスケソウダラ、ホッケ、タコを取る安全操業は、2023年の操業条件を決める交渉が越年したまま中断。スケソウダラとタコ漁は今季の出漁を断念した。

 羅臼町の漁業者は安全操業でのスケソウダラ漁に出られず、2月上旬まで日ロ中間ラインの手前で操業した。秋には安全操業のホッケ漁の漁期も控えるが、交渉のめどは立たないまま。「戦争による漁業への影響は大きい。せめて秋の漁には出たい」と話した。

 春以降のサケ・マス漁や貝殻島コンブ漁の交渉への影響も懸念される。サケ・マス流し網漁船の漁労長根室市=は「われわれは、沖に出られなければ仕事にならない。何とか日ロ間の交渉を進め、今年も出漁できる状況になってほしい」と祈った。それでも、例年の漁期が始まる4月に向け、3月から準備を始める予定という。(長谷川史子、森朱里、川口大地、武藤里美)