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北方四島周辺 安全操業交渉越年に漁業者落胆「見捨てるのか」怒りの声も

 日ロ間の漁業協力はロシアによるウクライナ侵攻後も継続してきたが、北方四島周辺水域の日本漁船の安全操業は来年分の交渉に入れないままの越年が確実になり、根室管内の漁業者からは落胆の声が相次いだ。1月の出漁を準備してきたタコやスケソウダラの漁に関わる漁業者は「日ロ関係悪化の中で、見捨てられたようだ」などと怒りを口にした。(北海道新聞2022/12/31)

 「1月の漁ができなければ、今季はほとんど水揚げがないまま終わってしまう」。根室のタコ漁船主はこう語り、肩を落とした。

 安全操業タコ漁は10月16日~翌年1月末が漁期。根室市内の8隻の漁船が担う。今季はしけなどで例年より3週間ほど遅い12月上旬に初出漁し、年内の水揚げは1回で漁獲は昨季同期の6・9%、7・6トンにとどまっている。今季は価格が前年比3割ほど高く、1月以降の挽回を狙っていた漁師たちの落胆は大きい。

 安全操業スケソウダラ漁は例年、1月初旬に解禁され、3月15日までが漁期。年明けの出漁を控える羅臼町の漁業者は日ロ協議の遅れに「漁協から連絡を受けていない。話せることはない」と口をつぐんだ。

 ロシアはウクライナ侵攻に対ロ制裁を発動した日本への対抗措置として、平和条約交渉を拒否し、北方四島とのビザなし交流に関する政府間合意も破棄。ただ、日本200カイリ内のサケ・マス流し網漁や北方領土周辺で行われる貝殻島コンブ漁などの漁業協力については、継続してきた。

 ただ、安全操業を巡っては日本側がサハリン州への援助金約1億5千万円の支払いを一時見送ったことで、ホッケ刺し網漁解禁が9月末まで3週間遅れた。交渉入りの見通しが立っていないことに、根室市内のタコ漁船のオーナーは「日ロ関係の悪化で出漁できず、補償もないのなら、漁業者は国に見捨てられたも同然だ」と語気を強めた。

 12月24日まで行われたホッケ刺し網漁では、ロシア国境警備局による書類点検などの「臨検」が昨年の約2・5倍の延べ259隻に上る。交渉で来年の操業条件に合意したとしても、臨検による水揚げ作業への影響を懸念する声が出ている。(川口大地、小野田伝治郎)

四島周辺安全操業交渉が初の越年 日ロ関係悪化影響、開始見通せず

(北海道新聞2022/12/31)

 北方四島周辺水域で行う日本漁船の2023年の安全操業を巡る日ロ政府間交渉は、30日までに協議入りできず、決着が初めて越年することになった。日ロ双方の水域での来年の操業条件を決める日ロ漁業委員会(地先沖合漁業交渉)の妥結が遅れたのに加え、ロシアのウクライナ侵攻に制裁を科した日本との関係悪化が影響しているとみられる。年明けに予定していたタコとスケソウダラ漁の操業は困難で、交渉入りできるかも見通せない状況だ。

 安全操業は両国間の協定に基づき、ロシアが実効支配する四島の管轄権に触れない形で1998年から実施。翌年の操業条件を決める交渉は昨年を除き10~11月に妥結してきた。例年は地先交渉の前に安全操業交渉が行われてきたが、関係者によると、ロシア側は今年、地先交渉の日程を先に打診。例年通り安全操業交渉から実施を目指した日本外務省と調整が難航した。

 日本側は今月19日に始まった地先交渉を23日に妥結させ、週明けの26~27日で安全操業交渉を終えたい考えだった。しかし、地先交渉はサバの漁獲枠などを巡って対立し、妥結は27日までずれ込んだ。日本側は28日から安全操業の交渉入りを目指したが、ロシア側が応じなかったという。

 日ロ漁業交渉に詳しい日本側関係者は、地先交渉が先行した背景について「ロシアは日本外務省が妥結を急ぎたい安全操業を人質にして、ロシアがやりたい地先交渉を優位に進めたかったのでは」とみる。

 以前から四島周辺のロシア主張領海内で日本に漁獲を認める安全操業に対しては、ロシア側に不満がくすぶっていた。プーチン政権が対ロ制裁を科した日本を「非友好国」に認定したことで、政府や議会内で安全操業への風当たりが強まっている。日本側は日ロ双方の休みが明ける1月10日にも交渉入りを目指すが、関係筋によるとロシア側には交渉を行うこと自体に慎重論がある。

 安全操業を巡っては、ロシア政府が今年6月、四島を事実上管轄するサハリン州への援助金を日本が支払っていないことを理由に、政府間協定の履行停止を表明。日本政府は対ロ制裁を行う中での支払いに慎重だったが、9月に支払う方針を表明した経緯がある。(佐々木馨斗、今井潤)