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北方領土が舞台の映画「ジョバンニの島」 脚本の桜井さんと主人公モデルの得能さん、根室で再会

 【根室旧ソ連軍の侵攻で北方領土色丹島を追われる少年らの姿を描いたアニメ映画「ジョバンニの島」(2014年公開)で脚本を担当した桜井大樹(たいき)=本名・圭記(よしき)=さん(46)=東京都在住=が今月、根室市を訪れ、少年のモデルになった同市在住の得能宏さん(90)と11年ぶりに再会した。公開から10年。今はアニメの企画制作で活躍する桜井さんは「ボクにとってこの作品は大きなターニングポイント。お礼を伝えたかった」と話す。(北海道新聞釧路根室版2024/4/23)

ジョバンニの島」で脚本を務めた桜井大樹さん(右)と主人公のモデル得能宏さん。桜井さんが持参した映画のDVDに得能さんがサインした

ジョバンニの島」で脚本を務めた桜井大樹さん(右)と主人公のモデル得能宏さん。桜井さんが持参した映画のDVDに得能さんがサインした

■ビザなし交流や墓参、再開願う/つながり伝える映画、根室の宝

 「世界の映画祭でいろいろな賞をいただいたこの作品ができたのは得能さんのおかげ。10年も前だが、ありがとうございました」。今月1日、出張先の網走から足を延ばし思いを語る桜井さんに、得能さんは「映画を見た、と今も全国の青少年から手紙が来る。ジョバンニの島根室北方領土のつながりを伝えてくれる。根室の宝の一つになったと思う」と感謝の言葉を伝えた。映画制作中の13年以来の再会だった。

 元島民の高齢化で領土返還運動の継承が課題になっており、得能さんは「語り部をするだけではなかなか伝わらない島の暮らしなどを伝えてくれた」と作品の意義を語る。

 映画は色丹島で暮らす少年と、戦後移住したロシア人少女の交流とともに、旧ソ連軍の侵略で故郷を奪われる人々を描く。日本音楽事業者協会(東京)が創立50周年記念で制作し、日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞やフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭審査員特別賞など8カ国13映画祭で15の賞を受けた。

 桜井さんはこの作品で、ドラマ「北の国から」などの演出で知られる杉田成道さんとともに脚本を担当した。島の建物や帽子、靴の色、材質まで描写しようと色丹島出身の得能さんと電話で何度もやりとりした。つらい体験もある中で、「ロシア人少女との思い出やハチミツの味といった明るい記憶もある。映画はそんな得能さんに助けられた」

 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の脚本協力などで経験を積んだ桜井さんは「ジョバンニの島」でプロデューサー業務に初めて挑んだ。脚本に加え、映画制作全体を担う立場で作品の意義を伝えて「(アニメの)絵を描く人だけで千人ぐらいにお願いした」。完成後、領土問題で向き合うロシア・サハリンでも上映。「大きなロシア人男性が赤ちゃんみたいに泣いていた。相互理解といった部分が伝わったのかなと思う」

 この作品が転機となり、プロデューサー業務を本格的に始め、今はアニメ企画制作会社サラマンダーピクチャーズを経営する。

 1日は根室市役所で石垣雅敏市長と懇談。石垣市長は「今は北方領土のビザなし交流も墓参もできない」と説明し「領土問題の報道も減るのでジョバンニの島は多くの人に見てもらいたい。北方領土を学ぶ修学旅行生にバスの中で見てもらうこともある」と話した。

 映画でも描かれた北方四島とのビザなし交流は20年から中断されたまま。桜井さんは「再開してほしい」と語った。(津野慶)