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「息子」との人間愛、次世代に 色丹島出身・得能宏さん(89)=根室市=<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>34

 色丹島出身の得能宏さん(89)=根室市=は、北方四島とのビザなし渡航が途絶えた今も交流の再開を強く願っている。色丹島には「親子の契り」を交わしたロシア人島民がいるからでもある。(北海道新聞根室版2023/4/18)

 得能さんは1992年5月のビザなし交流の第1回訪問から30回以上、島を訪れた。2008年に出会ったロシア人島民は得能さんの次男と年齢が近かったことなどから、得能さんから「息子にならないか」と提案。喜んで受け入れてくれた。以来、島を訪れては家族の近況を伝えあったり、プレゼントを贈り合ったりしている。

 しかし、ロシア政府は昨年3月、北方領土問題を含む平和条約交渉を拒否し、ビザなし交流や自由訪問を停止した。日本政府も当面の墓参を見送った。得能さんは「人生の中で思いも付かないような突発的な不幸の始まりで、会うことが出来なくなった。北方領土ソ連に侵攻された時と似ている」と話す。

 得能さんは新型コロナウイルスの感染対策もあり、自由訪問で色丹島を訪れた19年7月を最後に、島を訪れていない。ロシア人島民の男性は得能さんや元島民の代わりに墓の手入れや除雪を行い、「墓は私が守るから心配しないで」とメッセージを送ってくれた。誕生日には祝いの言葉を送り合い、家族の写真のやりとりもしている。

 得能さんは終戦後にソ連の侵攻で島を追われた13歳まで色丹島で過ごした。侵攻から退去までの3年間、ロシア人とともに島で暮らした当時のことは、アニメ映画「ジョバンニの島」に描かれ、得能さんが主人公のモデルとなっている。

 得能さんは「元島民と現島民には人間愛に満ちたつながりがある。元気なうちに礼を言って、この関係性を次の世代につなげたい。墓参だけは人間の尊厳に関わる。途切れさせてはいけない」と話している。(先川ひとみ)