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対日参戦の記述大幅増 ロシア新歴史教科書 中立条約の有効性触れず/四島「取り戻した」主張

 ロシア政府が9月の新学期から導入した新しい歴史教科書の詳細が判明した。第2次世界大戦末期の旧ソ連の対日参戦や北方四島の領有を正当化するロシア側の主張を大幅に拡充。日ソ中立条約が当時有効だったことには触れず、日ロ両国が初めて国境を画定した1855年の「日露通好条約」以降、一貫して日本の領土だった四島を「戦争で取り戻した」と表現している。領土問題で強硬姿勢を強めるプーチン政権の一方的な歴史観が将来世代に根付く恐れがある。(北海道新聞2023/10/1)

 「1945年の日本の最終的な敗北にソ連が決定的な役割を果たしたことは、短い文章で書かれた以前の教科書とは違い、生徒たちに明確で理解しやすいものになった」。国営タス通信は新学期が始まった9月1日、新しい教科書の編集に携わったロシア軍事歴史協会の関係者の話を伝えた。

 プーチン政権はウクライナでの軍事作戦開始後、愛国教育を強化し、高校生に当たる10年、11年生に全国統一の国定教科書を初めて導入。北海道新聞が入手した大手出版社の従来の教科書と比較すると、対日参戦に関連する記述量は「ロシア史」で2ページから7ページに、「世界史」で1ページから4ページに増えた。

 北方四島のロシア領有については、45年2月に米英ソ首脳がソ連の対日参戦の見返りに千島列島の引き渡しを密約した「ヤルタ協定」に基づくものだと主張。さらにソ連が8月9日に対日参戦し、「クリール諸島(北方領土と千島列島)を取り戻した」としている。帝政ロシアが日露通好条約をはじめ、日本と結んだ1875年の樺太・千島交換条約、1905年のポーツマス条約で、いずれも四島が日本領だと認めていたことが分からない書きぶりになっている。

 日本の歴代政権は日本が参加していないヤルタ協定に法的拘束力はなく、日ソ中立条約に反して対日参戦したソ連北方領土を不法に占拠したとして返還を求めてきた。だが、新たな教科書にはソ連が45年4月に中立条約の破棄を日本に通告したことだけが記され、通告後も46年4月までの1年間は条約が有効だったことも記されていない。「日本がソ連軍への軍事行動を画策し、ソ連は極東国境の脅威に無関心ではいられなかった」と指摘し、先に日本側の挑発行為があったとして正当化している。

 日本外交筋は「ロシアは都合の悪い部分を無視し、対日参戦があたかも自衛的なものだったと喧伝(けんでん)している」と話した。教科書には49年にソ連が極東で日本軍の戦争責任を追及した「ハバロフスク裁判」の項目も設けられ、日本の軍国主義批判が強調されている。

 戦後の対日関係に関する記述では、北方四島の名称を挙げ、「日本はソ連と平和条約の調印に向かうことを拒否し、南クリールを自国の『北方領土』とみなした」と指摘。56年に日ソ国交が回復して以降も「米国の政治的、軍事的圧力により、日本は見通しの立たない領土問題で硬い立場を維持することを余儀なくされた」と主張した。

 ロシア国内では、ナチスドイツを破った「大祖国戦争」と呼ばれる独ソ戦が第2次世界大戦の偉業として重視されてきたが、プーチン政権は今年から9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」に制定。ウクライナ侵攻を巡って日ロ関係が悪化する中、岸田文雄政権が進める防衛力強化の動きを「軍国主義の復活」などとして批判を強めている。

 国営ロシア通信によると、プーチン大統領最側近のパトルシェフ安全保障会議書記は8月下旬の会合で「歴史的な記憶を保持し、世代の継承を確保することが重要だ」と強調し、新しい教科書の意義を訴えた。(本紙取材班)