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ロシア「占領は正当」強調 「日本が先に軍事計画」文書公開 四島侵攻76年 歴史認識で中国と共闘

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 旧ソ連軍の北方領土への侵攻開始から28日で76年が過ぎた。日本政府は日ソ中立条約を無視して対日参戦したソ連による北方四島占領は「法的根拠がない」と主張するが、ロシア政府は今年、日本が先に対ソ連の戦争を準備していたとする機密文書を新たに公開。歴史認識問題で中国との対日共闘も強めている。菅政権の対ロ交渉姿勢が見えない中、領土問題解決はますます見通せなくなっている。(北海道新聞2021/8/29)

 「日本がソ連との戦争を準備していた証拠の機密扱いを解除した」。今月8日、国営ロシア通信は、ロシア連邦保安局(FSB)が初めて公開したとする極秘文書の内容を報じた。

 翌9日は旧ソ連が第2次世界大戦末期の1945年8月9日に、当時まだ有効だった日ソ中立条約を無視する形で対日参戦してから76年に当たる。文書は、戦時中の日本の関東軍の資料や幹部の証言を元にソ連当局が作成したとしている。

 記事は、文書の写真付きで、ソ連の対日参戦前に日本がソ連に対する「軍事行動の計画を練り、破壊工作を行った」などと指摘。ロシア通信は文書を元に27日までに計10本以上の記事を配信し、日本側に中立条約に違反する意図があったと繰り返し報じた。

 旧ソ連は対日参戦後、日本がポツダム宣言を受け入れ無条件降伏を表明した後も戦闘を続け、8月28日に択捉島に侵攻。9月5日までに国後、色丹、歯舞群島を含む北方四島を占領した。

 ただ、ロシアではソ連の対日参戦は、米英ソ首脳によるヤルタ協定に基づくもので「日本の軍国主義から島々を解放した」との歴史観が固定化。プーチン政権は四島領有は「大戦の結果」と主張する。機密文書の開示はこうした政治的宣伝を強化する一環とみられる。

 20日にはロシア外務省のザハロワ情報局長が、15日に東京で開かれた全国戦没者追悼式について声明を発表した。「南クリール(北方領土)を不法占拠したとして、ソ連とロシアに根拠のない批判を続けている」と日本を批判した。ロシアが日本の終戦の日に関して公式見解を出すのは異例だ。

 さらに懸念されるのは、歴史認識を巡って、ロシアが中国と歩調を合わせる動きを強めていることだ。ロシア外務省の声明は、菅義偉首相の式辞が対日戦争で亡くなった多くのソ連や中国の国民に触れていないとも指摘。ロシア大統領府によると、プーチン大統領は25日、中国の習近平国家主席との電話会談で、大戦時の出来事に関する真実を守り、歴史を改ざんする試みを許さない取り組みが求められているとの認識を確認した。これまで北方領土問題で中立的立場だった中国が、ロシア寄りの姿勢を強める可能性もある。

 一方、加藤勝信官房長官は27日の記者会見で、ソ連が日ソ中立条約に違反したと指摘したが、ロシア側の発信や発言にコメントすることは「生産的ではない」と主張。「わが国の立場はこれまでもロシア側に伝えており、何ら変わらない」などと述べるにとどめた。

 領土問題を含む日ロの平和条約締結交渉は、1年前の昨年8月28日に安倍晋三前首相が進展を見いだせないまま辞任を表明し、後継の菅政権では首脳や外相レベルの対面での会談が一度も実現していない。政治対話の失速も背景に、戦勝国としての立場を誇示するプーチン政権との溝は深まっている。(モスクワ 則定隆史、東京報道 古田夏也)

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