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ウクライナ侵攻、日本に重く 旧ソ連の対日参戦から77年 領有正当化強めるロシア 交渉拒否、再開見通せず

 北方領土問題を生んだ第2次世界大戦末期の旧ソ連の対日参戦から9日で77年。日本は日ソ中立条約を無視して侵攻したソ連軍の北方領土占領を「法的根拠がない」として返還を求めてきたが、ウクライナ侵攻を続けるロシアは日本との平和条約締結交渉を拒否し、再開は見通せない。ロシアは対日参戦や四島領有を正当化する姿勢を強め、「二つの侵攻」は日本に重くのしかかっている。(北海道新聞2022/8/10)

 「あらゆる方法で断固として防衛する」。ロシアのプーチン大統領は7月31日、「海軍の日」の演説で、北方領土周辺をロシアの国益を守るための重点海域の一つに位置づけた。

 1945年8月9日に対日参戦したソ連は28日に択捉島に侵攻し、9月5日までに北方四島を占領。当時、日ソ中立条約はまだ有効だったが、ロシア側は米英首脳が対日参戦の見返りに千島列島をソ連に引き渡すことを密約した「ヤルタ協定」などを根拠に、正当性を主張。さらに近年は日本側が先にソ連軍への攻撃を画策し、中立条約に違反する意図があったとの一方的な主張を強めている。

 ロシア外務省のザハロワ情報局長は5月、自身の交流サイト(SNS)で、ロシア政府が昨年公開した機密文書などを根拠に「日本は形式的に中立条約を結んでいたが、ソ連との戦争を準備し、実際に戦闘行為を行った」などと決めつけた。ウクライナから7千キロも離れている日本が、第2次大戦時と同様にロシアに敵対的な行為を取っているとして批判した。

 一方の日本側は、日ソ中立条約を巡るロシア側の主張は「歴史を曲解している」(政府関係者)との立場で、秘密裏に結ばれたヤルタ協定に法的根拠はないと反論している。岸田文雄首相はウクライナ侵攻後、北方領土を「わが国固有の領土」と明言。日本側は領土問題の解決を含む平和条約交渉の継続を一方的に拒否したロシアの対応を「極めて不当」と批判しているが、ロシア側は対日けん制を強めている。

 国営タス通信によると、プーチン氏の最側近パトルシェフ安全保障会議書記は7月上旬、「日本がクリール諸島(北方領土と千島列島)に対する報復主義的な傾向を強めている」と述べ、アジア太平洋地域での米軍と同盟国による軍事力増強を警戒。ロシア側は8月末から北方領土を含む極東で、大規模な軍事演習を計画している。

 ロシア議会では与野党の議員グループが、9月3日の「第2次世界大戦終結の日」を「軍国主義日本に対する勝利と第2次世界大戦終結の日」に改称する法案を提出。秋にも成立する可能性がある。

 ロシア政府は、対日戦勝が「島々を解放した」との歴史観の宣伝を強めており、北方領土を事実上管轄するサハリン州では14日に旧日本軍との戦闘を再現するイベントなどが予定されている。法案が成立すれば「ロシアの対日感情がより厳しくなる」(日本外務省幹部)との懸念の声が出ている。(渡辺玲男)