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洋上慰霊、喜びと無念 来て良かった/心の距離遠い 10日、最終日

船が近づき姿を見せ始めた歯舞群島を確認する参加者=7月29日

 根室港発着で7月23日に始まった洋上慰霊は、今月10日で全10回の日程を終える。北方領土へのビザなし渡航が当面見送りとなった中、少しでも島に近づけたという喜びと上陸できないもどかしさ。参加した元島民らは、さまざまな思いを胸に、島に向かって船上から手を合わせた。(北海道新聞釧路根室版2022/8/10)

 4回目の7月29日。船が歯舞群島に近づき島影が姿を現すと、デッキに集まった参加者は島を眺めたり、写真に収めたりした。参加者からは「島を前にして慰霊するからこそ感じるものがあった。来てよかった」との声が聞かれた。

 択捉島民2世で直木賞作家の佐々木譲さん(72)=東京都=は、叔母の正子さん(86)=札幌市=とともに、島に眠る先祖に祈りをささげた。島は眼前にあるのに、訪問はかなわない。「こういう形でしか北方領土に接することができず無念。根室北方領土は物理的には近いのに、心理的距離は遠く感じた」

 8日までの計9回のうち、3回は荒天で出港できなかったり、途中で引き返したりした。9回目の8日は強風で出港が中止され、参加者は納沙布岬に向かったものの、霧が濃く、島影も望めなかった。国後島出身の伊藤光子さん(79)=釧路市=は「島の姿さえ見えなかったのは残念。故郷の近くで先祖に手を合わせる機会があれば、必ず参加します」と話した。(川口大地、武藤里美)