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四島の財産権、議論置き去り 北方領土土地訴訟20年 自分の土地、登記変更できず

釧路地方法務局根室支局に保管されている北方領土の登記簿

 79年前の旧ソ連の侵攻により北方領土を追われた元島民の故舛潟喜一郎さんが、北方四島に残してきた土地の登記を巡って国と争った「北方領土土地登記訴訟(舛潟訴訟)」で、最高裁が原告の訴えを棄却して24日で20年になった。日本の領土でありながら、自分の土地の登記を変更できないという矛盾は解消されないままだ。元島民の高齢化が進む中、島の財産を巡る議論は置き去りにされている。(北海道新聞2024/2/24)

 「固有の領土といいながら登記変更を認めず、国民に私的財産の所有権を放棄しろと言っているようなもの。北方領土が日本の領土であることを否定するに等しい決定だった」。舛潟訴訟で原告弁護団の代表を務めた村松弘康弁護士(77)=札幌市=は振り返る。

 舛潟訴訟が始まった1990年代前半は冷戦終結の影響から日ロ関係が改善し、領土問題の進展が期待された時期だった。訴訟は領土問題への関心を高める一種の返還運動の役割を果たしたとの指摘もある。

 一審は原告側の訴えを認めたが、二審札幌高裁は「北方領土は日本の統治権が行使できない特殊な地域」で、登記官の実地調査ができないとした国の主張を認め、一審判決を取り消した。最高裁は上告を棄却、原告側敗訴が確定した。

 国が北方領土での行政権を否定し、司法も追認したことで、その後同様の訴訟は起こされていない。舛潟訴訟で当初から原告を支援した司法書士の岩井英典さん(71)=札幌市=は、所有者の住所変更は登記官の実地調査がなくても広く行われていると指摘し、国の主張に説得力はないと語る。

 登記の変更ができない状態が続く弊害として、将来北方領土が返還されても土地の所有者が分からなくなっている恐れがあると述べる。その上で「その土地が誰のものであるかという国土の権利関係をしっかり整理するのは国の役割。不法占拠されている北方領土ではどう整理すべきか、という議論を絶つ結果を作った政府と司法の責任は重い」と批判する。

 北方領土に残した財産を巡っては、千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟、札幌)が国などへの要望で、土地などを使えない状態が続くことに補償措置を講じるよう求めている。これに対し国は、土地の状態などの現状把握ができないとして財産権の議論は「(ロシアとの)平和条約締結交渉時に明確にされるべきもの」としている。

 ロシアのウクライナ侵攻により日ロ対立は深刻化し、領土問題を含む平和条約締結交渉は凍結状態にある。歯舞群島勇留島出身で千島連盟根室支部長の角鹿泰司さん(86)は「北方領土が日本の領土であるなら、島に残した財産権の問題はロシアとの交渉なしに解決できるはず。島の返還が見えない状況下で、国内でできる課題を後回しにしないでほしい」と求めた。(武藤里美)

<ことば>北方領土土地登記訴訟(舛潟訴訟) 北方領土歯舞群島水晶島出身の舛潟喜一郎さん=故人=が根室市内での引っ越しに伴い、同島に所有する土地の登記簿の所有者住所を変更しようとしたところ、釧路地方法務局根室支局が申請を却下。舛潟さんは1994年、同支局登記官を相手取って行政訴訟を起こし、却下処分の取り消しなどを求めた。97年の一審釧路地裁は「わが国の領土内の土地は不動産登記法に基づく登記の対象になる」として処分の取り消しを命じ、舛潟さん側が勝訴。しかし舛潟さん死去後の99年の二審札幌高裁判決は原告側敗訴とし、2004年2月24日に最高裁が上告を棄却した。法務局は現在、相続の申し出があった場合、相続事項を記載した別紙を登記簿に添付するという暫定的な方法で対応している。