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北方領土元島民の洋上慰霊 思い受け継ごうと4世代で参加

 北方領土が旧ソビエト軍の侵攻を受け、実行支配されてから今年で78年。元島民らによる墓参事業はロシアによるウクライナ侵攻の影響で、今は実施のめどがたっていない。少しでも島に近い場所から鎮魂の祈りを届けてもらおうと、8月下旬から始まった今年の洋上慰霊。その中には元島民である家族の思いを受け継ごうという4世代家族の姿もあった。(産経新聞2023/9/3)

 昨年に続いて行われている洋上慰霊は、北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟と北方領土問題対策協会、北海道が共同し、北方事業の交流専用船「えとぴりか」で根室港を発着する「歯舞群島コース」(3回)と「国後島コース」(3回)の全6回で実施する計画。

 3日に行われた2回目は元島民ら52人が乗船。歯舞諸島多楽島(たらくとう)で暮らしていたという水島與宗治(よそじ)さん(91)=根室市在住=は今回、娘と孫、そして曾孫の4世代7人で参加した。

 多楽島では両親ときょうだい5人の7人家族でコンブ漁をしていたという水島さん。次女の木村知栄子さん(58)によると、終戦後の9月2日ごろにソ連兵が上陸。家族を先に避難させた後、月末の夜を待って船で根室に逃げたという。「父からはソ連兵が来たときの話など島の話をよく聞いた。墓参で島に行くのを楽しみにしていたけど、年を重ねてからは毎回『今回が最後』と言うことが多くなった。今回はみんなで来ることができてちょっとうれしそう」と父の姿に笑顔を見せた。

 船内では曾孫らと一緒に島のある方向をじっと眺めていた水島さん。孫の下田智美さん(30)は「最近は年を重ねて体調を崩すことも増えたけれど、元気なうちに島を見てほしかったし、私たちの子供にもひいじいちゃんが生まれた場所を見せたかった」。

 姉の大杉成美さん(33)も「子供たちの記憶にきょうのことが少しでも残ってくれれば」とし、「元島民3世として返還運動などに取り組んできたが、知るべきことがたくさんある。子供たちにもそれを伝えていきたい」と語る。

 船上の慰霊式は根室半島歯舞群島の間の中間ライン付近で執り行われ、4世代全員で祭壇に献花。そんな様子を見ていた水島さんは港に戻った後、満足そうな笑顔を見せながら小さな声で「ありがとう」と感謝の思いを家族に伝えていた。