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ビザなし30年「日ロ交流に功績」元島民、ゴルバチョフ氏悼む

 8月30日に死去したミハイル・ゴルバチョフソ連大統領は、北方四島とのビザなし交流を提案し、相互交流拡大の土台をつくった。根室管内の元島民からは死を悼む声が上がる一方、約30年前の同氏の動きとは裏腹に悪化する日ロ関係の現状に嘆きも漏れた。「ロシア(当時はソ連)との関係を変える一筋の明かりに見えた」。歯舞群島多楽島出身の萬屋努さん(80)=根室管内中標津町=は、ゴルバチョフ氏が1991年の来日の際に領土問題の存在を認めたことをこう振り返る。萬屋さんは東京での歓迎夕食会で同氏と握手を交わした。一方、ロシアのウクライナ侵攻を機に悪化した日ロ関係の現状を念頭に「あの時の明かりが途絶えたように感じる」と語った。(北海道新聞2022/9/1)

 ビザなし交流は92年から始まった。根室市の石垣雅敏市長は「交流の積み重ねが領土返還、日ロ平和条約の締結につながると信じて取り組んだ」と振り返る。千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の脇紀美夫理事長(81)=同管内羅臼町=は「交流の方向性をつくってくれた。功労があった人が亡くなり残念だ」と死を惜しんだ。ただ、北方領土交渉はそれから30年がたった今も、解決の糸口は見えない。

 鈴木直道知事は31日の記者会見で「北方領土問題の存在を認めた日ソ共同声明に署名したことで、ビザなし交流の新たな枠組みがつくられた。心より哀悼の意を表する」と述べた。(武藤里美、小野田伝治郎)

         多楽島出身の萬屋努さん