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3年ぶり中央アピール 元島民「せめて墓参を」 平均年齢87歳「故郷の地踏めなくなる」

 東京都内で3年ぶりにデモ行進が行われた1日の「北方領土返還要求中央アピール行動」。根室管内から参加した約80人の元島民らは、ロシアによるウクライナ侵攻で、北方領土返還の道筋が一層不透明になる中、故郷への思いを胸に返還運動の継続を訴えた。日ロ政府間では対話も途絶え、北方四島との交流の再開は見通せない。「せめて墓参を」。平均年齢87歳の元島民の訴えには焦りがにじんだ。(北海道新聞2022/12/2)

 「領土交渉が停止している分、声を上げる必要性はこれまで以上に増している」。2018年以来、2回目のデモ行進に参加を決めた国後島出身の古林貞夫さん(84)=根室市=は出発前、語気を強めた。

小旗を手に「北方領土を返せ」と声を上げながら銀座周辺を行進する古林貞夫さん

 小旗を手に銀座周辺を歩き始めると、行進の様子をカメラに収める通行人も多かった。「どんな形でもいい。領土問題の存在が全国に伝わってくれるなら歩いたかいもある」

 1・6キロの行進で「北方領土を返せ」と繰り返し訴えると、こう漏らした。「本当は『故郷の島に渡らせろ』と叫びたかった」。今年の正月、東京に住む大学生の孫幅口雄太さん(20)と「今年は一緒に島へ行こう」と約束。しかし、その直後の2月にロシアがウクライナに侵攻し、北方領土へのビザなし渡航は見通せなくなった。「自分が元気な間に連れて行かないと、先祖の記憶が継承できなくなる」と焦りが募る。

 ロシア側は、日本人が四島を訪れるビザなし渡航の三つの枠組みのうち、自由訪問とビザなし交流の政府間合意を破棄する一方、墓参は維持する方針を示している。歯舞群島多楽島出身の河田弘登志さん(88)=根室市=は「島に上陸できる重みは何にも代えられない」と、墓参再開の意義を強調した。

 今夏、根室海峡の日ロ中間ラインの手前で行われた洋上慰霊では多楽島の島影は見えなかった。今年米寿を迎え、加齢による足腰の衰えも日々実感している。「墓参だけでも早期に再開してくれないと、体力的にも二度と故郷の地を踏めなくなってしまう」と声を絞り出した。

 同じ多楽島出身の高岡唯一さん(87)=根室管内羅臼町=は「北方領土問題解決の機運を盛り上げよう」と声を上げた。「ロシアに対する行動というより、今は国内に呼びかけることが必要」と語る。

 島での体験を伝える町内最高齢の「語り部」。体調面などから道外での講演は断るようになったが、今回は「自分が行かなくては」と、娘の同伴で上京した。「四島は元島民の故郷であり、固有の領土。でも、国内世論が薄れつつある」との危機感があったからだ。

 都内での移動は体にこたえたが、行進後、高岡さんは強調した。「中高生ら若い人たちにも考えてほしい。そのために声を上げたんです」(川口大地、森朱里)