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北方領土交渉 先行き見えず <戦時下の皇帝プーチン大統領5選>㊦ 

 「われわれは間違いなく検証を行うだろう」

 ロシア大統領選でプーチン大統領が勝利し、5期目に向けた動きが本格化した19日。漁業庁のシェスタコフ長官はロシアメディアのインタビューで、「非友好国」との間の漁業分野の協定を見直す考えを示した。(北海道新聞2024/3/21)

 発言は、マトビエンコ上院議長が「敵対的な国々との協定を検証することが必要だ」と、議会で提起したことを受けたものだ。ロシア議会は6日に北極圏のバレンツ海域で英国漁船の操業を認めてきた協定を破棄。ウクライナ侵攻に対ロ制裁を続ける英国への対抗措置で、マトビエンコ氏は他の「非友好国」との協定も検証し、ロシアに不利益なものをパッケージにまとめる考えを示した。

■「特別権利」議会問題視

 ロシア議会や治安機関には、北方四島周辺での日本漁船の安全操業や元島民らの北方領土墓参についても、日本側に「特別な権利」を認めているとして問題視する声がある。対ロ制裁を科した日本が非友好国とされて以降も、これらの協定自体は残っているが、マトビエンコ氏はプーチン氏と関係が近く、2015年にはロシア200㌋水域内での日本漁船のサケ・マス流し網漁禁止の流れをつくった有力者だ。

 「安全操業や墓参も危ないかもしれない」。日本外務省幹部は、ロシア側の動きに警戒感を強める。

 12年、18年のロシア大統領選直後には、野田佳彦安倍晋三両首相がプーチン氏に電話で祝意を伝達。日ロ関係強化へ連携を確認したが、ウクライナへの一方的な侵攻が続く中、互いに歩み寄る姿勢は乏しい。

 「近い将来、ロシアが日本の座を奪い、世界第4位の経済大国になる可能性は十分にある」。プーチン氏は大統領選直前の国営メディアのインタビューで、国内総生産GDP)が購買力平価で日本に次ぐ5位になったとして、経済の着実な成長を誇示した。

 日本からの経済協力などを期待し、安倍氏とは通算27回の首脳会談を重ねたプーチン氏。ウクライナ侵攻に日本が対ロ制裁を科すと、平和条約交渉を拒否し、四島ビザなし交流なども一方的に破棄した。侵攻後、ほとんど言及しなくなった日本にインタビューであえて触れたのは、日本を含む先進7カ国(G7)の制裁に打ち勝ったとアピールしたい思惑が透ける。

■日ロの対話不通のまま

 「ロシアのウクライナ侵略によって、平和条約交渉は全くめどがたたない」。プーチン氏の5選が伝えられた18日、岸田文雄首相は官邸で記者団に険しい表情で語った。

 日ロの政治対話は侵攻後、ほぼ途絶えた。岡野正敬外務次官は14日、約1年3カ月空席だった駐日ロシア大使として今月上旬に着任したノズドレフ氏と外務省で約20分間面会したが、「互いの立場の説明」(外務省筋)にとどまった。

 日本政府は対ロ制裁を続ける一方、侵攻後に中断していた日ロの文化交流事業を再開する方針。隣国として一定の関係は維持しながら、元島民の墓参などの再開の可能性を探る構えだ。

 だが、30年まで6年間の任期を確保したプーチン氏が侵攻をやめる気配はない。「主権」や「愛国心」を重視する政治姿勢は一段と強まるとみられ、北方領土交渉の展望は見えない。

 「もう領土返還は無理だ」。官邸内からはそんな声も漏れるが、外務省幹部は「領土が動くかは、ロシア側にメリットがあるかどうかだ」と国際情勢の変化を粘り強く見極める必要性を指摘する。

 首相は18日、記者団にいつものフレーズを繰り返した。「北方領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を日本は堅持していく」