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全て止まった領土交渉 漁業協定は粘り強く

■全て止まった領土交渉 漁業協定は粘り強く

 北方領土問題を含む日ロの平和条約締結交渉は、ロシアが拒否しており、日本から呼びかける状況にはない。第2次安倍晋三政権では私も日ロ首脳会談に同席したが、いつもプーチン氏の方から「北方領土問題が日ロ関係発展の妨げになっている」と言い出した。日本側は希望を感じ、北方四島での共同経済活動の検討などあらゆる手段を講じて、平和条約の締結を目指してきたが、その全てが止まってしまった。

 しかし、ロシアの赤裸々な国際法違反に対し、「日本は北方領土問題があるので対ロ制裁は行わない」ということにはならない。交渉停止はやむを得ない状況だ。他方、ロシア200カイリ水域内での日本漁船のサケ・マス漁や北方領土貝殻島コンブ漁など日ロ間の漁業協定については、これまでの経緯や蓄積を踏まえ、日本が当然主張すべきこともある。粘り強く交渉を続け、良い方向に持っていかなければならない。(北海道新聞2022/7/14)

<シリーズ評論・ウクライナ侵攻㉒>より

米中との関係、両立以外に道はない 問われる日本の安全保障 初代国家安保局長・元外務次官 谷内正太郎

■戦禍の背景に二つの「誤算」

 ロシアのウクライナ侵攻を巡る悲劇的な状況は、二つの「誤算」の結果だ。一つ目は、ウクライナ軍を見くびり、ロシア軍の能力を過信したプーチン大統領の誤算だ。軍事作戦は稚拙で、政治目的も曖昧だった。ゼレンスキー政権は「ネオナチ」で、ウクライナ東部のロシア系住民を虐殺から守るために「非軍事化」「非ナチ化」を目指すという主張には無理がある。プーチン氏が2月27日に戦略核を扱う軍の核抑止部隊に戦闘警戒態勢に入るよう命じ、「核による威嚇」という禁じ手を使ったことで、ロシアは国際社会全体を敵に回した。

 米国第1主義を掲げたトランプ前米政権下で分断が進んだ米国と欧州各国が一気に結束したことも、プーチン氏には誤算だった。ロシアの主要銀行を「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除するなどの経済制裁に加え、対戦車ミサイル「ジャベリン」の提供などの軍事援助も行われ、欧米の結束はかつてなく強まっている。プーチン氏には想定外の展開だっただろう。

プーチン氏の野心 見誤った欧米

 二つ目の誤算は、欧米側がロシアの「過敏な安全保障観」やプーチン氏の野心を見誤ったことだ。帝政ロシアは19世紀にナポレオンにモスクワまで攻め込まれた。第2次世界大戦ではナチス・ドイツの侵攻を受け、レニングラード(現サンクトペテルブルク)は900日近く包囲されて数十万人の餓死者が出た。大陸国家はある日突然、他国に攻め込まれる恐怖心が強く、特にロシアは歴史的な経験から「200%の安全保障」を求める国だと言われてきた。

 しかし欧米側は、ロシアのこうした懸念を十分には受け止めてこなかった。プーチン氏は北大西洋条約機構NATO)の東方拡大に強く反対してきたが、NATOは08年にルーマニアの首都ブカレストで開いた首脳会議で、ウクライナジョージアの将来的な加盟で合意した。その直後、ロシアはジョージアに軍事介入し、親ロシア派が一方的に独立を主張している同国内のアブハジア自治共和国南オセチアを国家承認した。ロシアはウクライナジョージアNATO加盟を何としても阻止する姿勢を鮮明にしていたが、欧米はロシアが国が傾くような無謀な侵攻に踏み切るはずはないと思い込んでいた。

 プーチン氏の人格や野心に対する理解も十分ではなかった。旧ソ連の国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏には、旧ソ連の崩壊は「20世紀最大の地政学的な大惨事」だった。今年で70歳を迎える中、大国ロシアの復活という夢を何とか実現したいと考え、その第一歩としてウクライナ侵攻を決断したのではないか。こうした野心を踏まえると、東部2州と14年にロシアが一方的に編入した南部クリミア半島を確保しただけでは、プーチン氏は停戦に合意しないだろう。

■核大国が暴挙 岐路に立つ国際社会

 国際社会は今、核大国が国際ルールに違反し、力による一方的な現状変更を行った時にどう対処するべきなのかという「歴史の岐路」に立っている。戦後の国際社会には自由、人権、法の支配などの普遍的な価値を尊重するリベラルな国際秩序が根付いてきた。冷戦崩壊後、21世紀初頭には「民主主義国」の方が権威主義体制や独裁国家などの「非民主主義国」よりも多かった。ところが、ここ2、3年は権威主義的な国家の方がコロナ対策をコントロールしやすいなどの理由もあり、非民主主義国が増加している。

 こうした変化は、日本にとっても人ごとではない。中国は「台湾は中国の不可分の一部」だと主張しており、独立は絶対に認めず、他国の介入があれば武力を行使して覆すと主張している。中国が台湾を併合すれば、中国が領有権を主張している沖縄県尖閣諸島は必然的に巻き込まれるし、南西諸島が戦場になることも十分想定しなければならない。

 プーチン氏が生きている限り、ロシアは旧ソ連圏の復活を目指して行動を続けるだろう。ウクライナと停戦で合意しても、ロシアには国際法違反に対する責任があり、謝罪や賠償、関係者の処罰などが行われない限り、欧米の対ロ制裁が解除されることはない。ロシアの国力と国際的地位は低下していく。

 一方、中国は全神経を集中し、ロシアの動向やウクライナの抵抗、先進7カ国(G7)の支援内容や国際世論の動向を注意深く見ているはずだ。ウクライナ侵攻に絡んで、中国自身の強引な海洋進出や、中小国に対する威圧的な「戦狼外交」、国内での人権抑圧などの問題がどう評価されているかも注視しているだろう。

■平和と安定へリーダーシップ発揮を

 中国は明らかに世界の中での覇権を目指しており、アジア、東アジアでの自らの地位を脅かす存在として米国を見ている。28年には中国の国内総生産(GDP)は米国を上回るとされ、建国100年の49年には世界最強の軍隊を持つ超大国になるつもりだ。バイデン米大統領は同盟国を重視する姿勢を示しているが、念頭には中国とどう対峙(たいじ)していくかがある。米中対立という国際社会の大きな軸は、今世紀にわたって続いていく。

 

 こうした国際情勢の中で、日本はどういう役割を目指すべきか。米国を追い抜く超大国になることは非現実的だが、多くの国民は世界の片隅でひっそりと生きる国となることも望まないだろう。日本は国際社会の中で主要な責任と役割を果たす国家として、生き抜く覚悟を持つべきだ。そのためには経済力、科学技術力を強化しつつ、国際社会の平和と安定に貢献し、積極的にリーダーシップを発揮していくことが必要だ。

 ウクライナ侵攻の教訓は、国家安全保障はやはり重要だということだ。国民の生命と財産を守るという国家本来の存在意義が問われている。核大国が力による一方的な現状変更を迫ってくることが現実にあり得るという前提で、どう対応するかを考えることが必要だ。日本は日米同盟を維持しつつ、中国との隣国関係も両立させていく以外に生きる道はない。バランスを保つことは極めて難しいが、政府・外交当局が知恵を絞るしかない。