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北方四島周辺 乱獲加速の懸念 ロシア大手、巨大トロール船投入

 ロシア極東ウラジオストクの水産大手「ロシア漁業会社」が、北方四島周辺を含む極東海域のスケソウダラ漁に巨大な「スーパートロール漁船」の投入を加速させている。従来の約3倍の積載能力があり、2028年までに4隻を約3倍の11隻体制に増強する計画だ。ウクライナ侵攻を続けるロシア政府は国内の産業育成を図る狙いで支援。日本側は四島周辺でのスケソウダラの安全操業の再開が見通せない中、ロシア側の乱獲が加速し、漁業環境がさらに悪化する恐れがある。(北海道新聞2023/11/22)

 今月上旬、同社4隻目のスーパートロール船が四島周辺で試験運転を終え、出漁した。船は全長108メートル、幅21メートルで、最大積載量を示す重量トンは約6千トン。船内ですり身や魚油などの加工品を製造する能力を持ち、同社幹部は「過酷な天候条件でも操業できる強い船だ」とアピールする。

 同社は11年、プーチン大統領の盟友でオリガルヒ(新興財閥)のゲンナジー・ティムチェンコ氏の子息らが設立。22年の漁獲量は国内最多の約28万3千トンで、8割をスケソウダラが占める。スーパートロール船は21、22両年に1隻ずつ投入し、23年は5月に続いて2隻目。スケソウダラの最盛期の今年1~4月に国内で操業した116隻中、同社の漁船が漁獲量のトップ3を独占した。

 スーパートロール船が相次いで投入される背景には、ロシア政府が17年に導入した投資制度がある。政府が企業に対し、漁獲枠を優先的に与える代わりに漁船の更新や加工場整備の投資を義務付けるものだ。

■輸出産業へ転換

 ロシアは14年のウクライナ南部クリミア半島の併合後、欧米などの制裁に対応するため、自国産業の育成を強化。世界有数の水揚げ量を誇るスケソウダラ漁も近代化を進め輸出産業への転換を狙う。かつては老朽漁船が多く設備などの遅れから加工品の大半を輸入に頼ったが、同社幹部は10月、中国で開かれた水産展示会で「新しい漁船団の最新技術は、最高品質の製品を保証する」と強調した。

 極東では北方領土の水産・建設業「ギドロストロイ」も投資制度を活用し、21~22年に色丹島でスケソウダラの加工場を稼働させ、2隻のトロール漁船に加工能力を備える改修を実施。極東の水産業は、加工設備の拡充に伴って漁獲量も増える循環が生まれている。

■「即時停止」要請

 こうした動きに道東の漁業者は懸念を強める。1990年代以降のスケソウダラの資源量減少はロシアの乱獲が一因とされる。さらに今年1月にロシア政府が対ロ制裁を科した日本に反発し、四島周辺での日本漁船による安全操業の政府間協議を拒否。年千トン近い漁獲量が認められていた四島周辺のスケソウダラ刺し網漁は出漁できなくなった。

 根室管内羅臼、標津、別海3町の関係者は10月中旬、道や外務省、水産庁などを訪れ「ロシアのトロール漁船の即時停止」を求めた。要請書によると、10年以降、根室海峡で年間延べ100~200隻超のロシアのトロール漁船の操業が常態化。「根こそぎ取る」ロシアに対し、資源保護も重視する地元漁業は先細り、羅臼の22年のスケソウダラの漁獲量はピーク時の1割に満たない7341トンにまで落ち込んでいる。

 取材に対し、羅臼漁協の萬屋昭洋組合長は「海はロシアだけのものじゃない」と即時停止を求め、政府は資源管理の観点から「ロシアのトロール漁船の操業に問題があることは常時伝えている」(外務省ロシア課)と説明。ただ、安全操業を巡る日ロの政府間協議も途絶える中、漁業関係者からは「ロシアが何をしてもこちらではどうしようもない」と諦めの声も漏れる。(本紙取材班)

■日ロ 厳しさ増す漁業協力

 隣接する日ロ両国は旧ソ連時代から漁業協力を続けてきたが、近年はロシア側が強硬姿勢を強め、日本側には厳しい状況が続く。

 ロシアは1985年の日ソ漁業協力協定に基づく日ロ双方の200カイリ内でのサケ・マス漁に関して、2016年からロシア水域での日本漁船などの流し網漁を禁止した。環境保護が理由だったが、ロシアのウクライナ南部クリミア半島併合に日本が対ロ制裁を発動したことへの反発や、ロシア国内での漁獲を増やす思惑もあったとされる。

 昨年2月のロシアのウクライナ侵攻後も四つの漁業協力枠組みのうち、地先沖合漁業と日本200カイリ内のサケ・マス流し網漁、北方領土貝殻島周辺のコンブ漁の交渉は妥結。いずれも日本側から協力費を得られるなど、ロシア側の利益が大きいと判断したとみられる。来年の地先沖合漁業に関しても年内の交渉入りに向け政府間で調整が続く。

 一方、北方四島周辺水域の安全操業も日本側が協力金などを支払うが、「非友好国」の日本の漁船がロシア側の管轄権に触れない形で操業することに治安当局などの反発が根強い。操業再開に向け、ロシア側が政府間協議に応じる見通しはたっていない。(本紙取材班)