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知事と元島民が洋上慰霊 四島墓参復活願う声相次ぐ

 【根室北方領土付近の洋上でチャーター船「えとぴりか」から元島民らが慰霊する「洋上慰霊」の本年度3回目が7日、根室港発着であった。今回は元島民ら51人とともに鈴木直道知事が乗船し、四島に眠る先人を慰霊した。知事は下船後、四島に上陸しての墓参の復活を念頭に「今度は洋上でない形にしたい」などと指摘。元島民からも「あくまで四島上陸を」との声が相次いだ。(北海道新聞釧路根室版2023/9/8)

 「『目の前に島を見ながらなぜ島で墓参できないのか』と悔しい思いをしたのではないか」。知事は根室港に帰港後、記者団に対して元島民の胸中をこう推察。その上で「政府の外交交渉を後押しする環境を、道としても作っていきたい」と述べた。

 洋上慰霊は元島民による千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)と道が昨年から開始。ロシア側はウクライナ侵攻後の日本の制裁に対抗し、北方四島の「ビザなし交流」「自由訪問」を停止、日本側は墓参を含むビザなし渡航の当面の見送りを決めており、実質的な代替事業だった。

 ただ、乗船した元島民からは昨年に続き、「故郷の島で慰霊したい」との声が相次いだ。色丹島出身の鹿又淳子さん(84)=中標津町=は「洋上慰霊では満足できない。墓参は諦められない」。同島出身の深尾勝美さん(84)=滋賀県=は「故郷を見たい気持ちが、生きる力。次に根室へ来る時は、島に上陸できる時であってほしい」と願った。

 出航を港で見守った千島連盟根室支部の角鹿泰司支部長(86)は「『船で島に近づけてよかった』だけで終わってはいけない。墓参の早期再開を求める姿勢は変わらない」と話した。

 ただ、ウクライナ情勢は打開の見通しはなく、知事は「日ロ関係は厳しい状況にある」とも語った。千島連盟はロシア側から「望ましくない団体」に指定され、四島への元島民の上陸について安全を危ぶむ指摘もある。北方四島での墓参実現に具体的な道筋が見えていない現実もある。

 今回で全6回の前半にあたる歯舞群島コースが終了した。洋上慰霊は次回14日からは、国後島ハッチャス沖に近づく国後島コースが始まる。(川口大地、松本創一)

外交交渉を後押し 北方領土洋上慰霊 鈴木知事一問一答

 北方領土洋上慰霊後の鈴木直道知事と報道陣との一問一答は次の通り。

                ◇

 「今日は島も見え、洋上慰霊としては良かったが、元島民の皆さまからは墓参実現への要望をいただいた。目前に島を見ながら、なぜ四島で墓参ができないのかと悔しい思いもされたのではないか。日ロ関係は厳しい状況だが、ビザなし渡航、墓参の最優先という思いを政府に伝え、実現したい」

 ―道としてどう対応するのか。

 「元島民としては政府の動きを目に見える形で知りたいという声が強かった。多くの方にこの問題を知ってもらい(運動に)参画いただき、政府の外交交渉もしっかりと後押しをしていく。そういう環境を道としても作っていきたい」

 ―ロシア側が実効支配を誇示する動きがある貝殻島が見えたと思うが、道としてどう対応するか。

 「わが国固有の領土で、しかも(根室側から)見えるような位置での動き。容認できない。政府と連携をしながら地域の思いを伝えていく必要がある。洋上慰霊の船にロシア側の船が並走する状況もあり、島を目の前にしながらさまざまな思いを抱いた」(先川ひとみ)