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家族の古里、取り戻したい 初の元島民2世の千島連盟副理事長・鈴木日出男さん(71)=

 「親きょうだいの古里を取り戻したいという一心。元島民は本当に悔しい思いをして亡くなっていったのです」―。5月、千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の副理事長に、元島民2世で初めて就任した鈴木日出男さん(71)は、後継者としての北方領土返還運動への思いを語る。(北海道新聞根室版2023/8/31)

 終戦7年後の1952年、父正三さんと母キヨさんの6人目の子、長男として羅臼町で生まれた。小学時代、浜で昆布仕事の手伝いをしながら、父の故郷を尋ねたところ「ほら、そこだ」と指さされたのが、海の向こうの国後島だった。

 父からは「良いところだった」「景色がきれいで、食べ物に困らない」といった話は聞かされたが、生い立ちや島での暮らし、脱出の経緯などは詳しく知らない。「なぜか聞けなかったし、親もあまり話したくなかったのかもしれない。周りの2世に尋ねても、同じ状況の人が多いですね」

 70年に羅臼町職員となったのをきっかけに、千島連盟羅臼支部の青年部に参加し、返還運動キャラバンなどに携わるように。副町長となった2007年以降も活動を続け、17年には羅臼支部長に就任。「元気な1世がいる限りは、引っ張っていってもらう状況をつくりたい。しかし、われわれが1世を助けていかなければならない時代になってしまった」と話す。

 忘れられない出来事がある。父の晩年、入所していた福祉施設を見舞った際に「いま俺、国後行ってきた」と告げられた。「どうやって行ってきたの」と質問しても、父は「良いところだったぞ」と繰り返すだけ。父は再び故郷に足を踏み入れることがないまま、01年、86歳で亡くなった。

 「夢だったのか、ぼけが入っていたのか分からないが、やはり古里を思っていたんだ」。鈴木さんは父の気持ちを知り「返還運動を頑張らなければいけない」と強く感じた。「親の故郷に行きたい。祖父、祖母の骨がある場所で墓参りをしたい。そういう思いに駆り立てられている」

 「後継者」の鈴木さんも70歳を超えた。「2世も全員が活動しているわけではない。何世という区切りではなく、皆が関心を持てる運動をしなければ、組織の維持は厳しくなる」と危機感を募らせる。「われわれの後の人間をどう育て、託していくか。それが使命です」(小野田伝治郎)