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<卓上四季>ばあちゃんのしべとろ

北方領土創作絵本/「ばあちゃんのしべとろ」1ページ - 根室振興局地域創生部北方領土対策課 (hokkaido.lg.jp)
択捉島蘂取(しべとろ)村で生まれ育った三船志代子さんが村の暮らしをつづった絵本「ばあちゃんのしべとろ」(瑞雲舎)は、いつか孫に話すつもりで包み紙の裏面に書きためた思い出が基になった。島の記憶を次世代に伝えたいという願いは元島民共通のものだろう▼北方領土問題に関心を寄せてもらおうと、根室支庁(現根室振興局)が2001年度に実施した絵本コンクールの第1回受賞作品。活気あふれる漁村の暮らしや流氷に乗ったアザラシなどの豊かな自然を、四季折々の情景に合わせて平易な言葉で紹介している▼胸に迫るのは自由訪問で再訪した時の語りだ。「住んでいた家や学校や昔の建物は全部なくなっていたよ」。小学校3年まで過ごした故郷を奪われた悲嘆である▼戦前に日本人が建設した択捉島の旧紗那(しゃな)国民学校が先月、全焼した。戦後の一時期日本と旧ソ連の子供が共に使用した建物だ。往時をしのぶシンボルの喪失は島の記憶までもぎ取られるような心の痛みであろう▼きょうは北方領土の日。これほど日ロ関係が冷え込んだ状態で迎えるのは近年例がない。ロシアのウクライナ侵攻で北方領土返還を含む平和条約交渉は頓挫。ビザなし渡航の再開も見通せない▼「でもね」と三船さんは絵本を締めくくる。「ばあちゃんの蘂取はいいところだったよ」。自由にふるさとを訪れたい。元島民の切なる願いが込められた言葉である。(北海道新聞2023/2/7)