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返還大会で首相「墓参再開期待」「他人頼みか」元島民ら落胆

 7日の「北方領土の日」に東京で行われた「北方領土返還要求全国大会」で岸田文雄首相が述べた「あいさつ」が根室管内で波紋を広げている。「(北方領土墓参などが)再開できるような状況になることを強く期待しています」と対ロ交渉に関し主体性を欠くとも受け取れる内容を含んでいたためだ。元島民らからは「首相の意思を感じられず、落胆した」「他人頼みのようだ」と疑問視する声が相次いでいる。(北海道新聞根室版2023/2/9)

■対ロ交渉 主体性問う声

 岸田首相のあいさつは、根室市内で行われた根室管内住民大会の冒頭で中継され、参加した元島民ら850人が視聴した。会場で聞いた千島連盟根室支部長代行の角鹿泰司さん(85)は、首相の「期待しています」という言葉について、「日ロ関係を動かそうとする姿勢を感じられない。首相は日ロ関係に力を入れていない、と思えた」と落胆した。

 元島民たちはウクライナ侵攻後も、ビザなし渡航のうちロシアが唯一枠組みを残している墓参の再開を強く望んでいるだけに、首相発言に肩を落とした人は多い。角鹿さんは「墓参再開協議の意思表示など踏み込んだ発言を期待していた」。80代の元島民は「政府は国民に『期待してください』という立場のはず。『期待している』という発言は理解できない」と憤った。

 根室管内の行政関係者も「人ごとのようだと感じた人は多いのでは。返還要求の大会なのだから、期待を持たせる言葉がほしかった」と語った。

 千島連盟中標津支部の舘下雅志支部長(63)はウクライナ侵攻の終結がまず必要だとした上で、「『期待する』発言は、誰に何を、どう期待するのか明確に説明すべきだ」と指摘。管内で返還運動に携わる年配者の一人は「北方領土問題が暗いトンネルの中にある状況で、日本側が態度を後退させたと誤解を与えかねない発言。一国の総理なのだから慎重を期してほしい」と訴えた。(武藤里美、川原田浩康)

■首相あいさつ(要旨)

 7日に東京・国立劇場で行われた「北方領土返還要求全国大会」での岸田文雄首相のあいさつの要旨は次の通り。

            ◇

 「北方領土の日」である本日、3年ぶりに会場に参加者が集い、大会が開催されることは、大変意義深いと考えている。

 現在、ロシアによるウクライナ侵略によって日ロ関係は厳しい状況にあるが、領土問題を解決し、平和条約を締結するという方針を堅持している。

 北方領土墓参をはじめとしたビザなし渡航事業の再開は、今後の日ロ関係の中でも最優先事項の一つ。一日も早く事業が再開できる状況になることを強く期待している。

 高齢となった元島民の方々の思いに何とか応えるべく取り組む。北方領土問題は国民全体の問題。現在のような状況にあるからこそ、国民一人一人が、この問題への関心と理解を深め、政府と国民が一丸となって取り組むことが不可欠だ。