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若者の熱意どう生かす <つなごう四島の記憶 根室からの報告>下

 「FMの番組収録は、北方領土元島民の方から直接、話を聞く貴重な機会だと思います」。根室高3年の半田つくしさん(18)は、今月21日に根室市の千島会館であった北方領土元島民から、島での暮らしぶりを聞くFMねむろの番組出演後、こう語った。半田さんは根室高校で北方領土返還運動に取り組む北方領土根室研究会(北方研)に所属。2年生の秋から会長として会を引っ張ってきた。FMねむろ出演も北方研の活動の一環だ。4月に札幌へ進学した後も「領土返還運動に参加したい」と熱意を語る。(北海道新聞根室版2024/2/29)

■多彩な活動展開

 同時に不安もある。「高校を卒業して札幌に移ると、元島民の方々の話を聞ける場が減ってしまうのだろうか」―。

 根室管内では、児童生徒対象に北方領土関連の教育が積極的に行われている。小中学生に北方領土の理解を深めてもらうため、学校別に北方領土を望む納沙布岬を訪れたりする北方少年少女塾を実施。根室高校では、半田さんも参加する北方研が、根室振興局とともに、根室管内5高校の生徒と連携した活動を昨年度から展開している。

 ただ、この活動機会に恵まれた環境は、根室管内ならではのこと。高校生の多くは卒業後、札幌や釧路、首都圏などに進学、就職するが、都市部では若者たちの活動の場は限られる。

 昨年12月1日、JR札幌駅での啓発活動には、道主導の若者啓発グループ「北方領土サポーター」の会員が集まったが、参加者は札幌圏の中高生が中心。根室から札幌に進学した10~20代の姿はなかった。

 サポーターのメンバーは原則として中高生だが、24歳まで加入できる。高卒後に根室から転居した人も入会資格があるが、メンバー58人のうち高校卒業後の根室市出身は2人だけ。道の北方領土対策本部は「若い人が積極的に活動できるような対策を考えていかないといけない」とする。

 内閣府北方対策本部も2022年から、若者の視点で北方領土問題を考える「北方領土啓発次世代ラボ」をスタート。23年度は全国の高校生や大学生ら16人が参加している。道内関係者は5人で、うち3人が根室市内在住。根室市出身で札幌在住の若者はたった1人だ。

 元島民らによる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)にも、根室管内北方領土問題を学んだ若者を都市部で組織化するような事業はない。千島連盟の森田多江子主任は「根室管内北方領土について学んだ若者が、都市部への進学後に活動の場がなくなるという課題は把握している。若い会員向けの研修会などを行っているが、大学生などの入会は少なくネットワーク構築が難しい」。

■雰囲気の醸成を

 根室高校時代、北方研で活動し、昨年、札幌に進学した根室市出身の国後島元島民3世・久保歩夢さん(19)=札幌市在住=は札幌で「サポーター」「ラボ」の両組織に参加する。だが、根室出身の友人や進学先の学校の知人に一緒に運動に加わろうという人は「ほとんどいない」という。久保さんは「周りに運動する雰囲気がなく、受け皿もないことが理由では」と語る。

 半田さんは、近づく高校卒業を前に、自らのルーツを千島連盟に調べてもらったところ、歯舞群島勇留島元島民4世だと初めて知った。2月に千島連盟に加盟し、今後も活動を続けたいという気持ちはさらに強くなった。半田さんは「高校時代のつながりを生かし、札幌でも活動を続けたい」と意欲を語る。

 半田さんのような若者の志を形にする受け皿をつくることができるのか。大人の側の対応も問われている。(先川ひとみ)

■領土問題の本質学ぶ場を

 若者へ北方領土返還運動参加を促すためにはどのような事業が有効なのだろうか。自治体など公的機関の広報のあり方に詳しい北大大学院国際広報メディア・観光学院の北村倫夫元教授(66)は、日本の公式見解だけでなく、領土問題を巡る本質的な論点を学ぶ討論会のような教育の場の必要性を指摘する。

 北方領土に関する日本での啓発や教育は一般的に「不法占拠された領土を取り戻す」という日本の公式見解に沿って展開される。これに対し北村元教授は、ロシア側の言い分も含め理解することで、北方四島の経済面、安全保障面での価値を理解でき、本質的な関心向上につながるという。

 具体的には、若者の受け皿として日ロ双方の立場に分かれて主張を述べ合うディベート大会のような催しを提案。「日本とロシアそれぞれの論理を学べば、論点に対する理解がより深まる」とする。また、北方領土の自然や歴史、文化といった柔らかな切り口をもっと啓発資料に盛り込み、関心を持ちやすいようにすべきだと指摘している。( 川口大地)

北方領土返還運動の「高校生キャラバン」で、署名を呼び掛ける根室管内6高校の生徒たち=1月