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千島連盟道北支部長に初の元島民2世、母の思い胸に「語り部」継ぐ 旭川の下田さん

 北方領土の元島民でつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)で、上川、留萌、宗谷管内を管轄する道北支部長に、元島民2世が初めて就いた。歯舞群島多楽島民2世の下田美香さん(56)=旭川市=。ロシアのウクライナ侵攻で領土交渉は厳しさを増しているが、高齢化する元島民の思いを受け継ぎ、諦めない覚悟だ。(北海道新聞旭川上川版2023/9/29)

 母親の住吉照子さん(84)を元島民と知ったのは、20歳を過ぎたころだった。千島連盟から自宅に届いた北方四島への墓参の案内に驚いた。当時は返還運動を右翼の活動と誤解していたという。「母にこれは何と問いただし、島のことを初めて教えてもらった。当麻の人だとずっと思っていたからびっくりした」

 ソ連侵攻時、幼かった住吉さんは家族で船に乗って、多楽島を脱出。当麻町に移り住み、結婚後、旭川市で下田さんを育てたことが分かった。ただ、島の話を聞いても、すぐには返還運動に関心が向かなかった。

 転機になったのは2000年、千島連盟への入会だ。「知らないうちに母が勝手に私を入会させていた。まもなく私にも北方四島へのビザなし交流や自由訪問などの案内が届くようになった」。母に誘われ、四島を訪れるようになり、元島民の望郷の思いに触れ、返還運動に携わるようになった。

 13年に道北支部の理事に就き、17年から同支部事務局長を務めた。元島民2世の「語り部」として道北各地で講演も続ける。5月の定期総会では、元島民に推されて支部長に選ばれた。「本当はまだまだ1世に頑張ってもらいたかったが、2世や3世が引き継いでいかなければならない」と腹をくくった。

 悩みは道北での領土問題への関心の低さだ。「ウクライナ情勢で領土交渉が進まなくなったが、返還運動は続けなければならない。署名活動だけでなく、興味を持ってもらえるような啓発活動に取り組みたい」と決意を固くする。(仁科裕章)