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安倍元首相がこだわった北方領土返還 交渉止まり元島民の思いは…

安倍元首相が在任中に取り組んだのが、ロシアのプーチン大統領との北方領土交渉です。現状はどうなっているのか、取材しました。(日テレNEWS 2023/7/8)

記者「私は今、船の上に立っているんですけれども、 画面左には北海道羅臼町、右手には国後島が見えます。かなり近いことがわかります」

北方領土の一つ、国後島。水産資源が豊かな周辺海域では、シャチに出合えることも-。

しかし、地元の漁師らはいま、ロシア側との交渉が止まったことで、大きな打撃を受けていました。

これは、海上マップ。羅臼町国後島の間には緑の線が。地元では「自粛ライン」と呼ばれています。

記者「この緑のラインを超えると拿捕される?」

船長(元漁師)「あっちの気分次第だねこんなものは。安全操業が打ち切られている」

一方、港にはロシアの国旗を掲げた船が。どこから来たのか尋ねると、「クナシリ!クナシリ!」と北方領土から来たと説明しました。

ロシア側からは、船員手帳を持つ人の滞在が認められる一方で、日本側は北方領土に立ち寄ることすらできません。

北方領土の問題の解決に向けて、一歩でも前進させるために全力を尽くしていきたいと思います」(安倍元首相、2016年)

安倍元首相は、在任中、27回にわたりプーチン大統領と首脳会談を行いました。

首相補佐官として支え続け、ロシアとの共同経済活動に向けた交渉にも関わった長谷川榮一氏は、安倍首相が当時、北方領土問題にこだわった理由について「旧島民の皆さんの北方領土の状態を解決して欲しいとの気持ちに、非常に思いを強くした」と説明しました。

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元島民の得能宏さん。13歳の時に旧ソ連からの侵攻を受け故郷の色丹島から逃れました。

安倍首相と面会したこともあり、「安倍さんの動き10年見て、やっぱり皆さん期待する」と話します。

2016年、地元・山口にプーチン大統領を招いた安倍首相は、「新しいアプローチ」を打ち出し、共同経済活動の実現に向け一歩、踏み出します。

「高めのボールという従来の取っていたやり方を、もう一度ご自分なりに整理された上でトップであるプーチン大統領にぶつけてみると」(長谷川元首相補佐官

さらに2018年、歯舞・色丹、2島の引き渡しを明記した「日ソ共同宣言」を基礎に平和条約交渉を加速させるシンガポール合意に至ります。これには当時、従来の4島一括返還から2島先行返還に方針転換し、「ロシアに譲歩した」との批判も出ました。

しかしその後、事務レベルで交渉は停滞していきます。長谷川氏は、頓挫した背景に、ロシア政府内に「抵抗勢力の存在」を感じたといいます。

一方、元外交官でかつて北方領土交渉にも関わった東郷氏は「外交で、タイミングほど重要なものはない」と話します。

静岡県立大学グローバル地域センター 東郷和彦客員教授

「(安倍元首相は)タイミングをつかみ損ねた」

シンガポールで出した提案を2016年にプーチンにどんとぶつけていたら、開かれた機会の窓を日本はつかめたかもしれない」

元島民の得能さんは「二十何回もプーチンさんと会って我々の時代でもって決めようとして、あっさり裏切られてしまった」と失望を隠しません。

一方で、ふるさと・色丹島への思いは変わりません。

「人によっては『まだ行きたいの?』って言うんだわ。オレは行きたいんだよ。本当すごく行きたいんだよ」(元島民・得能宏さん)

北方領土交渉は止まったままで、「残された時間」も重くのしかかっています。

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