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譲れぬ父祖伝来のコンブ漁 北方領土・歯舞群島

長い漁具「かきざお」でコンブを絡め採る漁師ら。すぐ近くでロシア国境警備局の警備艇が監視を続けていた =北海道根室市鈴木健児撮影)
 午前7時。出漁を告げる花火とサイレンで、北海道の根室・納沙布(のさっぷ)岬沖に集結したコンブ漁船204隻が一斉に3・7キロ先の貝殻島周辺へと向かった。漁師らは、海上保安庁、ロシア国境警備局の警備艇が監視するなか「かぎざお」と呼ばれる長い漁具を海中に突き刺すようにして次々にサオマエコンブを絡め採っていった。(産経新聞電子版2023/6/18)

 ロシアによる不法占拠が続く北方四島歯舞群島は志発(しぼつ)島、多楽(たらく)島、水晶(すいしょう)島、勇留(ゆり)島、秋勇留(あきゆり)島と貝殻島、萌茂尻(もえもしり)島などの小さな島々から成る。現在、歯舞群島にはロシアの国境警備隊が駐留し、住民はいないという。周辺海域では、先の大戦前からコンブ漁が盛んだった。終戦時は5281人が主に漁で生活し、日本人が北方領土から強制退去させられた戦後も漁は続けられた。

 昭和38(1963)年、拿捕(だほ)などの混乱を避けるため、日本側が旧ソ連に採取料を支払う協定が結ばれた。漁期は毎年6月1日~9月30日とされ、漁獲量も毎年定められる。

 昨年はロシアによるウクライナ侵略の影響などで日露間交渉が難航し、出漁が約3週間遅れたが、今年は例年通りとなった。

 だが、事前に書類申請などの手続きを求められ、漁場へのスマートフォンの持ち込みと写真撮影を禁止された。「臨検」と呼ばれるロシアによる船の検査は、昨年は例年の4倍以上に増えており、緊迫した状況は続いている。

 初日の漁から戻った幸郁丸の本田俊也船長(41)は「日露関係が厳しい状況でも漁に出られてよかった。コンブの質も量も良くてほっとした」と安堵(あんど)の表情を見せた。

 本田船長は、祖父が歯舞群島水晶島出身のコンブ漁師の3代目。「われわれは昔からこの場所で漁をしてきたし、これからも続けるつもりだ」。陽光にきらきらと輝く水揚げされたばかりのコンブを眺め、そう言い切った。

 歯舞群島志発島出身の母親を持つ千島歯舞居住者連盟の本田幹子さん(65)は、「現在、約30年続けてきた唯一の交流手段『ビザなし交流』も中断されている。コロナの影響もあり、元島民らの墓参りも4年間できていない。このままでは長い間続けてきた交流がゼロになってしまう」と苦しい胸の内を話した。(写真報道局 鈴木健児

譲れぬ父祖伝来のコンブ漁 国境の島・歯舞群島 - YouTube

長い漁具「かきざお」でコンブを絡め採る漁師ら。すぐ近くでロシア国境警備局の警備艇が監視を続けていた =北海道根室市鈴木健児撮影)

海上保安庁の巡視船「さろま」やロシア国境警備局の警備艇など数隻が海域を警戒した。後方は水晶島 =1日午前、北海道根室市鈴木健児撮影)