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ロシア人観 交流で変わる 歯舞群島多楽島出身の福沢英雄さん(82)=標津町=<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>8 

 標津町に住む福沢英雄さん(82)は歯舞群島多楽島出身。家は島の西部、蒲原磯(かんばらいそ)の裕福なコンブ漁家だった。5歳だった1945年9月、ソ連軍の占領で家を奪われ、一家9人、コンブ漁船で島を脱出した。(北海道新聞根室版2022/9/29)

 父は標津で木工所に職を得たが、働きに出た2人の姉は苦労がたたり病で世を去った。「僕も学校で『貧乏』『臭い』と、いわれのない差別を受けた」。それでも定時制高校を出てボイラー技士の資格を取り、学校の校務員として働いた。

 「長いことソ連人、ロシア人を恨んでいたんだ」。

 そんな見方を変えてくれたのは、1992年からの四島へのビザなし渡航で始まった現島民たちとの触れ合いだった。自身は16回渡航し、若者から年配者まで現島民を13回受け入れた。自宅に泊めては食事を振る舞い、女性には着付けして記念写真を撮るなどした。

 自宅庭に一昨年、プレハブの「日ロ友好館」を開設。交流で受けた記念品や多楽島国境警備隊員と撮った記念写真など数百点を陳列。故郷と自由に往来できる日を待ち続けている。

 そうした中、ビザなし交流開始へ道を付けた旧ソ連ゴルバチョフ元大統領がこの8月30日に死去し、ロシア政府は9月に入りビザなし交流と自由訪問の破棄を打ち出した。「嫌なことが重なった」と福沢さん。

 それでも9月半ばを過ぎると、「墓参だけは拒否されていない」と気持ちの整理が付き始めたという。「訪問団長だったエレーナ・コルイチェワさんはどうしてるかな。『択捉の恋人』さ。また会いたいなあ」(川原田浩康)