北方領土の話題と最新事情

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 「きょうは島が近く見えるね」

 10月上旬、本土最東端にほど近い根室市珸瑤瑁(ごようまい)の80代の漁師からこんな言葉を聞いた。珸瑤瑁地区から北方領土歯舞群島までの距離は約10キロ。日常的に島影は見えるが、その日はことにはっきり見えた。漁師はこう付け加えた。「これは、あしたは天気が悪くなるな」。言葉通り、翌日の根室市内は雨が降った。(北海道新聞夕刊根室版2022/10/25)

 釧路地方気象台によると、遠くの風景が近くに見えるのは、空気中の水分が増えて拡大鏡のような役割を果たしているため。そのため、その後は天気が下り坂になるという。

 漁師たちの言い伝えには、科学的な根拠があった。ただ、それは彼らが目の前に島を望み、時には島の近くまで出漁する毎日を重ねて来たからこそ気づけたことなのだろう。北方領土の存在が、生活の近くにあるという証拠に感じられた。

 それにしても、島までの実際の距離は全く変わらないのに、近く見えたり、その後天気が悪くなって何も見えなくなったりする―。気象のいたずらが、戦後77年経過しても解決しない日ロ間の平和条約交渉と重なってならなかった。(武藤里美)