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見えぬ島、思いはそばに 洋上慰開始、元島民らが祈り

 ロシアのウクライナ侵攻により北方領土へのビザなし渡航が当面見送りになったことを受け、根室港発着で23日に始まった元島民らの洋上慰霊。チャーター船「えとぴりか」は悪天候で島に近づけず、島影を望むこともできなかったが、参加した42人の元島民らは、さまざまな思いを胸に先祖に手を合わせた。(北海道新聞釧路根室版2022/7/24)

 「また来たよ、と心の中で伝えました」。歯舞群島志発島出身の松田久恵さん(82)=十勝管内幕別町=は感無量の表情だった。島には2人の兄の墓があり、墓参や2020年の上空慰霊にも参加。今回は「高齢になり、どんな形でも島に近づきたい」と申し込んだ。志発島を見ることはできなかったが「近くに来て手を合わせられただけでも、良かった」とかみしめた。

 色丹島出身の得能宏さん(88)=根室市=は島で眠る祖父の写真や花、菓子を持参。「なかなか島に行けず申し訳ない」と念じながら、船上の献花台に手を合わせた。

 志発島出身の清水敬子さん(77)=東京都=は「日ロ関係悪化の中でも、洋上から手を合わせる機会を設けてもらえたのはありがたい」と話した。

 志発島元島民3世の山田淳子さん(40)=東京都=は「ロシアの侵攻で避難するウクライナの人々と元島民は、故郷を追われた点で共通している」との思いで、ウクライナ製のレンズを持ち込み、元島民の姿を撮影。「元島民は古里に思いをはせていると感じた。ビザなし渡航が再開し、元島民がまた島に上陸できる日が来てほしい」と願った。

 船は午前9時半過ぎに根室港を出港。午前10時ごろに根室港から東に約6キロの地点で、悪天候のため折り返した。参加者は午後1時ごろ根室港で下船した。(武藤里美、小野田伝治郎、川口大地)