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ロシアとの進まぬ領土交渉の象徴 廃墟と化した日本最東端「オーロラタワー」の盛衰

 ロシアの実効支配下にある北方領土。そこから最も近い場所である北海道・根室市納沙布岬には、対岸の北方領土を眺めるための望遠鏡が設置された施設がいくつかある。なかでもひときわ目を引くのは1987年竣工の巨大な白塔「オーロラタワー」(望郷の塔)だ。日本船舶振興会(現・日本財団)の会長を務めた笹川良一氏が、北方領土返還運動の一環として建設した高さ96メートルの塔の展望台は、国後島歯舞群島を一望できる根室観光の目玉だった(開業時の名称は「笹川記念平和の塔」)。「日本の国境」を30年以上にわたって撮影している報道写真家・山本皓一氏が、今年6月に現地を訪れた時の様子を写真とともにレポートする。(NEWSポストセブン2022/11/2)

 これまで何度もオーロラタワーを訪れ、展望台から歯舞諸島国後島を撮影してきたが、今回は人の気配はなく、入り口には「休館」を知らせる貼り紙が掲示されていた。呆然とタワーの前に立ち尽くしていたところ、近くを通りがかった地元の住民が「ずっとクローズが続いてますよ」と教えてくれた。新型コロナの感染拡大が始まる直前の2020年元日の営業を最後にタワーは休館しており、再開のメドはたっていないという。

 タワー入り口の天井の一部は崩落し、横のレストランに至っては建物自体が崩れ、廃墟同然になっていた。広い駐車場に車は1台もなく、舗装されたアスファルトの継ぎ目から伸びた雑草は、そのまま放置されている。

 まるで、手詰まり状態の北方領土問題を象徴するかのような光景である。

 一般の日本人がノーチェックで行ける範囲でいえば、納沙布岬は「日本領土の最東端」。つまり、日本で最も早く“初日の出”を拝める場所だ。

「御来光見物の客が来る元日だけ営業して、春になったら営業を再開するパターンだった。でも、2020年にコロナが始まってからはもうダメさ。エレベーターも長いこと動かしてないから危ないでしょ。それにしても、この先どうするんだろうね……」(前出の住民)

 開業初年度は約30万人の来訪者があったというが、リピーターが見込めるような施設ではなく、近年の入場者数は年間数千人にとどまっていたという。

 1987年に開業したタワーは、東京都の観光開発会社が26億円をかけて建設した「バブルの塔」でもあった。その落成式典は笹川氏や当時の根室市長、北海道副知事なども出席する盛大なイベントだった。そして当時は、“景色を眺める以外の目的”にも使われていたという。

「あの頃は、携帯電話が普及してない時代だったもんでね。漁師の奥さんたちがトランシーバーを持って展望台に上がってさ。望遠鏡でソ連警備艇が近づくのを見つけると、沖合にいる旦那に『あんた、気をつけて!』って知らせたもんですよ」(同前)

 だが、バブル崩壊直後の1993年に当初の運営会社は倒産。その後、タワーの所有権は京都の観光会社に移り、2012年に「オーロラタワー」としてリニューアルオープンするも、経営は好転しなかった。現在は、領土返還運動にかかわるNPO法人が管理運営にあたっているが、当面、観光客の受け入れを再開する予定はないという。

「そもそもこのあたりは天気の良い日が少ないんですよ。雨、曇、霧、雪が多いから。北方領土が見えないと分かっていながら、エレベーターのお金を払って展望台まで登る人は少なかったな」(同前)

 タワーが建設された頃には4万人近い人口があった根室市だったが、2021年には約2万4200人にまで減少。集客の起爆剤も見当たらず、かといって解体費用も捻出できないとなれば、オーロラタワーが「バブル廃墟」の仲間入りすることは避けられない。単に「北方領土を望み見る」というニーズが著しく減少していることは、ボロボロになったタワーの姿が物語っている。本土最東端・納沙布岬の「演出」が求められている。(文・写真/山本皓一 取材協力/欠端大林)