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四島墓参、再開見えず ウクライナ侵攻継続、政府は交渉に慎重姿勢

 北方領土墓参の再開が見えない。ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本政府は4月に北方四島とのビザなし渡航事業の「当面見送り」を発表。元島民は人道目的の墓参の早期再開を強く望むが、ロシアが侵攻を続ける中、交渉の見通しは立たない。元島民は北方四島に共同慰霊碑を含む墓地公園の整備なども要望するが、政府間は対話すらできない状況が続いている。(北海道新聞2022/8/15)

 「今後の具体的な展望について申し上げられる状況にはない」。10日夜に就任会見に臨んだ岡田直樹沖縄北方担当相は、墓参を含む北方領土とのビザなし渡航について、従来通りの答弁を読み上げただけだった。

 ビザなし渡航は、コロナ禍の影響もあり2020年以降、全面中止が続く。ロシア政府は3月に対ロ制裁への対抗措置として平和条約交渉の拒否と合わせ、ビザなし渡航のうち、日本人とロシア人島民が相互往来する「ビザなし交流」などの停止を表明した。

 墓参の停止には触れていなかったが、日本政府はトラブルなどを懸念し、4月に墓参も含め当面見送る方針を発表。政府関係者によると、日ロ両国のビザなし渡航の実施団体間では、侵攻前の2月に日本側が今年の年間計画を打診して以降、ロシア側の返答がないままで、日本側から督促もしていないという。

 ビザなし渡航は例年10月ごろまでで、3年連続で全面中止の見通しだが、政府は方針を示していない。外務省筋は「日本側から旗を下ろせば、ロシア側から『もうやらなくていいんですね』と言われかねない」と話す。

 元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)と道は墓参ができないため、日ロ中間ラインを越えずに船上から行う洋上慰霊を10日まで実施。7月下旬に事業に参加した内閣府黄川田仁志副大臣は来年以降も洋上慰霊を続ける考えを示したが、鈴木直道知事は9日の記者会見で、元島民は島での慰霊を願っているとして「洋上慰霊は墓参に代わるものではない」と強調した。

 千島連盟が求める四島内の墓地公園の整備には、土地の提供などで四島を実効支配するロシア側の理解が必要になるなどハードルは高い。日本側は「まだ小当たりすらできていない」(政府関係者)のが実情だ。

 対ロ制裁を続ける中、日本政府内にはロシア側と積極的に交渉する姿勢は見えないが、墓参は人道的な理由で旧ソ連時代にも行われてきた。元島民の平均年齢は86歳を超えており、「ロシアとの関係が難しい状況のままでも再開に向けて交渉してほしい」(脇紀美夫千島連盟理事長)との声が出ている。(文基祐)