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ロシアが旧日本軍人を再び「戦犯」扱い…有罪の根拠は不明 シベリア抑留正当化、自国は「解放者」と主張

 ロシアが旧ソ連時代、シベリアに抑留した旧日本軍人らを「戦犯」として再び追及している。第2次大戦でアジアを侵略した日本を「軍国主義」と批判し、返す刀で自国を「解放者」とアピールする構え。抑留を誤りとした判断を改め、戦勝国としてアジアでの影響力拡大を期す。(東京新聞2023/3/20)

秋草俊が没したロシア西部ウラジーミル監獄に残る本人の写真と抑留記録

 ロシア最高検は昨年、旧ソ連がシベリアに抑留した旧日本軍人の3氏(故人)の復権を取り消した。関東軍作戦参謀だった瀬島龍三、諜報ちょうほう員を養成した中野学校初代校長の秋草俊、南樺太(サハリン)で軍を指揮した峯木十一郎が対象で、外務省のザハロワ情報局長は「彼らが有罪であることは完全に証明されている」と説明した。

 復権とは、戦犯の汚名を着せられ、有罪判決を受けた軍人らを「再審」で無罪とし、名誉回復する措置。スターリン時代、市民や外国人が強制収容所に送られたり、銃殺されたりしたことへの反省から生まれた。ロシアは1993年、エリツィン大統領(当時)が抑留を「非人間的な行為だった」と認め、日本側に謝罪したが、復権取り消しによって「抑留は正当」との見解を示したことになる。

第2次大戦でソ連が日本やドイツに勝利したことをたたえるロシア軍大聖堂の洗礼所

 抑留問題に詳しい富田武成蹊大名誉教授によると、復権の取り消し決定は最高検のホームページにも出ておらず、3氏が選ばれた理由は謎という。これまでの復権手続きでは、スパイを取り締まるソ連の国内法をソ連領外の旧満州などで捕らえた日本人に適用する矛盾などから無罪となったが、今回は何を根拠に「有罪」としたのか不明だ。

 検察の決定の背後には政権の意向があるとみられ、富田氏は「日ソ戦を知らない戦後生まれのプーチン大統領復権を取り消した意味は重い」と本紙に語った。

 プーチン政権は近年、「日本の軍国主義」を糾弾する動きが相次ぐ。

 2021年9月、ソ連が旧日本軍幹部や生物・化学兵器の開発を進めた731部隊を裁いた「ハバロフスク裁判」の学術会議を開催。ラブロフ外相は「人類の歴史に血みどろの跡をつけた日本の軍国主義者たちを将来にわたって記憶しなければ」と強調した。

1949年、旧日本軍に対するハバロフスク裁判が行われた将校会館。現在は愛国心高揚の行事などに使用される

 プーチン氏の最側近、パトルシェフ安全保障会議書記も21年、「日本政府が歴史を書き換えようとしても、アジア太平洋の人々は日本軍の残虐さを永遠に記憶するので、日本はアジアで仲間を見つけることは難しい」と語った。

 ロシア国防省もクーデターを起こしたミャンマー国軍に接近、国軍とロシアは第2次大戦で日本軍と戦った「同胞」と呼びかける。ロシアの特務機関、連邦保安局(FSB)も731部隊や日本軍の中国での侵略に関する史料を開示。駐ロ中国大使は昨年9月、「過去を記憶することは、未来に最良の助言を与える」とロシア紙に寄稿し、中ソによる対日戦の意義を改めて評価した。(極東ハバロフスクで、小柳悠志、写真も)