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元島民中央アピール 進む運動の世代交代、今後のあり方模索

 北方領土問題の早期解決を訴えるため、1日に東京都内で行われた北方領土返還要求中央アピール行動のデモ行進では、元島民とともに後継者の2世、3世が親や祖父母の思いを代弁し返還を強く訴える姿も目立った。元島民の高齢化を受け、今年は千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)の幹部に2世が名を連ねるなど運動は世代交代が進む。元島民後継者からは次世代の運動をどう展開するのか、模索する声も聞かれた。(北海道新聞デジタル2023/12/4)

 「北方領土を返せ、墓参の早期再開を」

 こぶしを振り上げて訴えながら銀座を進む500人の行進の中に、返還運動の次世代のリーダーと目されながら7月に65歳で他界した根室市の法月(のりつき)信幸さんの次男、祐蔵さん(36)の姿があった。故・信幸さんは千島連盟根室支部の元島民2世らによる「かけはしの会」の会長を務めていた。

 初参加の祐蔵さんは今回、根室市の市旗を掲げ、亡き父と共に返還運動を続けてきたメンバーと並び歩んだ。「返還運動に対する父の思いの一端を知ることができた。元島民3世として何ができるか考えていきたい」と語った。

 千島連盟によると、元島民の会員は今年3月末に948人と全会員の4割を切り、2世、3世の割合が大きくなっている。今回の行進も、根室管内派遣の元島民関係者27人のうち戦後生まれが21人にのぼった。

 千島連盟は今年5月、正副理事長3人が交代し、副理事長2人には元島民の2世が初めて就いた。その一人で国後島元島民2世の野潟龍彦さん(71)=根室市=は行進に参加し、「必ず故郷の国後島に戻ると決意していた母たちの世代の強い思いをしっかりと引き継ぎ、伝えていかなければ」と語った。同時に副理事長となった国後島元島民2世の鈴木日出男さん(71)=羅臼町=は「元島民が高齢化し、当時の様子を語れる人が減ることに危機感を覚える。運動の火は消せないので、国民の理解や関心を深めたい。2世の高齢化も進み、3世、4世の発掘も課題」と力を込めた。

 行進には、国会日程などを理由に閣僚は姿を見せず、道内選出国会議員の姿もまばら。銀座での行進も、道行く人がスマートフォンで写真を撮る程度で反応は薄く、後継者らには危機感も募った。国後島元島民2世で、根室の「かけはしの会」会長代行の高橋隆一さん(62)は「日ロ交渉が行き詰まる中、このまま同じPRを続けていても運動は広がらない。若い世代にどんどん参加してもらうなど、幅広く訴える手法がないか検討していきたい」と話した。(松本創一、森朱里)

■墓参再開求める 根室市の石垣雅敏市長ら根室地方の1市4町の関係者と面会した松野博一官房長官の話(冒頭のみ、要旨)

 北方領土返還運動、先頭に立って尽力いただいている皆さまに敬意と感謝を表する。今なおロシアとの間で北方領土問題が解決をされず、平和条約が締結されていないことは誠に遺憾。政府として重く受け止めている。ロシアによるウクライナ侵略で日ロ関係は厳しい状況にあるが、政府として四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結するという方針を堅持している。

 難しい状況だからこそ、問題解決には国民理解と関心が不可欠。政府として引き続き、みなさまとともに国民世論の啓発等に、取り組んでいく。

 北方(領土)墓参をはじめとする四島交流事業等の再開は、日ロ関係の中でも最優先事項のひとつ。高齢になられた、元島民の方々の気持ちに応えたいという強い思いを持って、ロシア側に対し、特に北方墓参に重点をおいて、事業の再開を引き続き求めていく。皆さまの思いを胸に、取り組みを続けていく。

■他界した同胞たちに吉報を 択捉島出身・鈴木咲子さん デモ行進出発式で決意表明

  島を離れてから78年、海の向こうに見える近くて遠いふるさとが一日も早く返ってくることを祈り、今日まで政府の外交交渉の下支えとして返還要求運動を続けてきた。

 しかし、残念ながら、ふるさとはいまだに返らず、自由に行くことさえもできない状況にある。

 望郷の念もかなわず他界した多くの同胞たちの墓前に吉報を伝えるその日まで、返還要求運動の火を消すことなくまい進し、本日、この無念の思いを希望に変えて、皆さまとともに北方領土問題の早期解決を声にあげ、力強く行動をすることを誓い、決意する。