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四島侵攻78年 返還へ継承 千島連盟根室支部 元島民、後継者の新リーダーに聞く

 【根室】1945年(昭和20年)8月28日の旧ソ連軍による北方四島への侵攻開始から間もなく78年。千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)で最多の会員を抱える根室支部では今年、元島民と後継者にそれぞれ新たなリーダーが就いた。日ロ関係の悪化で平和条約交渉やビザなし渡航の再開が見通せない中、目指す返還運動とは何か―。根室支部長の角鹿泰司さん(86)=歯舞群島勇留島出身=と、根室支部の後継者による「かけはしの会」会長代行の高橋隆一さん(62)=国後島元島民2世=に聞いた。(北海道新聞根室版2023/8/26)

■諦めない姿勢、示し続ける 支部長・角鹿泰司さん

 「返還実現を諦めない姿勢を国、ロシア、そして後継者に示し続けることだ」。4月に根室支部長となった角鹿泰司さんは、元島民の平均年齢が87・8歳に達し、北方領土返還交渉が停滞する今、島での生活実態を知る元島民の役割についてこう話す。

 元気な元島民が残る今のうちに、少しでも多く四島の記憶を若い世代へ語り継ぐつもりだ。後継者育成のため、新体制では副支部長に初めて元島民2世を抜てきし、活動を少しずつ後継者へ移行している。

 「自分たちの代では返還実現は難しいかもしれない。だからこそ、古里を離れた悲しみや悔しさとともに、元島民の領土返還への情熱も継承していきたい」

 旧ソ連軍が択捉島に侵攻してから78年となる今月28日、日ロ中間ライン近くでの船上の洋上慰霊が始まる。2年連続の洋上慰霊には安堵(あんど)しつつ、複雑な心境もある。「洋上慰霊は墓参に代わるものではない。島影を船から見るのと、島に上陸できるのとでは重みが違う」と考える。

 支部長就任以降、ビザなし渡航のうちロシア側が唯一門戸を閉ざしていない北方領土墓参の早期再開を一貫して要求している。「洋上慰霊で島に近づけるのはありがたいが、もう一度古里の土を踏みたいという思いは変わらない」

 小学3年生だった1946年、家族らと小型漁船で島から脱出した。76年に千島連盟の正会員になってから、長年返還運動の一翼を担ってきたが、今なお領土問題に進展が見られず、もどかしさは隠せない。「まさかこの年齢まで領土問題が未解決のままだとは思わなかった」

■2世の語り部、育成が急務 「かけはしの会」会長代行・高橋隆一さん

 7月下旬に「かけはしの会」の会長代行に選ばれた高橋隆一さん。次世代のリーダーと目されていた法月信幸会長の死去に伴い、新たなトップとなって約1カ月がたち、「若い後継者の確保と元島民2世の語り部の育成を急がなければ」と危機感をにじませる。

 8月18日時点で、同会の会員は87人。このうち2世が約7割を占め、3、4世は2割。平均年齢は54・1歳と高齢化しつつあり、若い世代を増やすことは喫緊の課題だ。「会の存在を知ってもらうのが大事。領土問題の知識があまりない人も気軽に参加できるイベントを実施したい」とする。

 返還運動を受け継ぐ難しさも感じている。根室支部には語り部活動に参加する2、3世は19人いるが、実体験として島の話ができる元島民には、発信力や説得力が及ばない。高橋さん自身も2回しか語り部経験がなく、「元島民が元気な間に返還への思いと島での記憶を引き継ぎ、少しずつ自分の言葉で伝えられるようにしていきたい」と語る。

 後継者がその溝を埋めるには聞く人の想像力をかき立てる工夫も必要。「講話だけでなく、地図や写真を使った内容も増やしていきたい」と考える。

 母の故郷国後島にはこれまで2回上陸。初めて島に渡った2004年、戦前の缶詰工場跡地を見て「ここにはたしかに日本人が住んでいた」と感じたことが、返還運動を続ける原点だ。今月28日からの洋上慰霊にも参加する高橋さん。「本来は島に上陸しての墓参が必要だが、船上からでも島の雰囲気は感じられる。一人でも多くの若者が領土問題を考える機会になってほしい」と期待している。(川口大地)