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悔しさ胸にバトン手渡す 歯舞群島多楽島出身・河田弘登志さん(88)=根室市<四島よ私たちの願い 日ロ交渉停止>38

 札幌市内で5月末に開かれた、千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)本部の総会。高齢により10年間務めた副理事長の退任が決まり、会員らの前に立った河田弘登志さん(88)の胸に悔しさがこみ上げた。(北海道新聞根室版2023/6/14)

 「任期中に少しでも領土問題を進展させてから次の世代に譲りたかっただけに無念だ」

 千島連盟は、河田さんを含め正副理事長3人全員が交代した。副理事長2枠には初めて元島民2世が就いた一方、理事長は引き続き元島民が務める。「3役全てを急に任せては2世が大変な思いをする。今は返還運動のバトンを2世に受け継ぐ過渡期」と河田さん。平均年齢が87・5歳と高齢化が進む中でも、トップには元島民を据える必要があると考えている。

 歯舞群島多楽島出身。1984~91年には根室市の領土対策係を、2000~11年には千島連盟最大の支部根室支部長を務めるなど、長年返還運動の一翼を担ってきた。副理事長を退いても四島の返還を願う気持ちは変わらないが、日ロ関係がかつてなく悪化し、領土問題解決の機運がしぼむ現状に「これまで運動に関わってきたのは何のためだったのか」とやるせなさも隠せない。

 小学5年の8月に終戦を迎え、10月には多楽島から親戚のいた別海町走古丹に移り住んだ。通学目的だったため、当初は「学校が休みになればすぐ島に帰れる」と考えていた。だが、古里の再訪は、東西冷戦が終結する1989年まで待たなければならなかった。

 それから34年。今も島へ自由に行き来できない状況は変わっていない。「体が元気なうちにもう一度多楽島に帰りたいが、今の日ロ関係ならそれも難しいな」。ぽつりとこぼした一言が、重く響いた。(川口大地)