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語り部の言葉「ウクライナ」が変えた 故郷追われた境遇、対ロ「交流」配慮も 根室・元島民の思いAIが分析

 北方領土の元島民らが四島での経験を伝える「語り部」が、ロシアのウクライナ侵攻を受けて試行錯誤している。侵攻前後の語り部の内容を分析したところ、現代のウクライナ情勢との関連や故郷からの強制送還の悲惨さを強調する内容が増加。一方、ロシア人との交流について語る頻度は変わっておらず、語り部たちはバランスを取りながら話していることが明らかになった。(北海道新聞根室版2022/12/10)

 根室市内の3人の語り部が2019~21年に語った内容と、同じ3人がウクライナ侵攻が始まった今年2月以降に語った内容を比較した。ビッグデータの解析を手がけるユーザーローカル社(東京)のシステム「AIテキストマイニング」で分析した。多く使われたり、語りの中で強調されたりした言葉は大きな文字で示される。

 顕著な変化が見られたのは、ウクライナ情勢との関わりを語るようになったこと。「ウクライナ」の単語は21年まではなかったが、今年2月以降は「ウクライナ問題はひとごとに思えない」「(ビザなし渡航は)ウクライナ情勢で全く先が見えない」など、故郷を追われ、自由な行き来ができない文脈で使われた。

 1947年に始まった強制送還で、経由地となった「樺太」の単語は使われた回数が倍増。「樺太での生活は、いつ死んでもおかしくなかった」など、日本人が狭い収容所に押し込められ、十分な食事もないまま過ごしたことが克明に語られるようになった。

 高齢化が進む「島民」の単語の使用頻度も増加。「元島民の平均年齢は87歳になり、やがて1人もいなくなる」と、現状への焦りや切々とした思いが現れた。

 一方、ロシア人との「交流」について語る回数はほぼ変わらなかった。現在のロシア人島民との関わりについて「交流をしていて、特に毎年来る人とは仲が良い」と紹介。ソ連占領下の生活について「子どもたちから始まった交流が、大人たちの世界に広がった」と振り返る語り部もいた。

 語り部で、歯舞群島志発島元島民2世の本田幹子さん(65)は「悲惨な思いをした北方領土の元島民がいることを伝える上で、ウクライナの現状に触れないわけにはいかない」と話す。ただ、ビザなし渡航再開や領土問題進展はロシア人島民の理解も不可欠だと指摘。「聞いた人に、ロシア人は悪い人だと十把ひとからげに思われないように語っている」と述べた。(武藤里美)