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ロシア部分動員令、極東でも波紋 北方領土から招集 徴兵事務所襲撃も

 ロシアのプーチン大統領が決めたウクライナ侵攻に関連した予備役の「部分動員令」が、極東でも波紋を広げている。北方領土では26日までに国後、択捉両島で少なくとも45人を招集。四島を事実上管轄するサハリン州政府は家族への支援金支給を表明するなど住民の不満払拭(ふっしょく)に躍起だ。極東全体では抗議による銃撃や放火事件も起きており、国内の社会不安は収束の見通しが立たない。(北海道新聞2022/9/27)

 択捉、国後両島の地元紙などによると、26日までに択捉島から20人、国後島から25人が招集された。択捉島の地元担当者は「仕事は完了した」としている。

 サハリン州のリマレンコ知事は22日、交流サイト(SNS)に「ドンバス地方(ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州)を守るという問題ではない。ロシアの未来や住民の安全保障に関わることだ」と投稿し、動員令の意義を強調。招集を本格化させたが、州の動員数は明かしていない。

 23日には州都ユジノサハリンスク中心部の「勝利広場」で部分動員令を支持する集会も開かれた。サハリン州では2月の侵攻直後も目立った抗議活動は表面化せず、今のところ平穏を保っているようだ。ただ、同州は9月中旬の統一地方選プーチン政権与党「統一ロシア」の得票率が唯一、5割を切った地域で、住民には不満がくすぶっているとみられる。

 州政府は26日、招集された住民の家族に対する30万ルーブル(約75万円)の一時金支給を発表したほか、健康上の問題を抱えるなど動員に適さない人が招集されているとの住民の訴えを検証する特別委員会を設置。世論の反発を警戒しているとみられる。第2次大戦末期、日本統治下の樺太に侵攻した旧ソ連軍の「英雄」の孫が部分動員に志願した話など、戦意高揚を意図した報道も増えている。

 独立系メディア「メドゥーザ」は、部分動員令が出された21日以降、国内約20カ所の徴兵事務所に火炎瓶による放火や銃撃があったと報道。極東ではハバロフスクやザバイカル地方などで放火が確認され、26日には極東に近い東シベリア・イルクーツクの徴兵事務所で責任者が銃撃され、集中治療室に運ばれたという。

 プーチン政権は軍務経験や専門的な軍事技術を持つ予備役を招集対象とし、人数は2500万人のうちの約1%と説明。だが、猶予されるはずの学生や予備役でない国民に召喚状が届くなど、対象の曖昧さが国民の不信感を招き、招集を逃れるため国外に脱出する若者らも後を絶たない。

 各地方政府が政権への忠誠を示そうと動員の号令をかけていることも混乱を助長。ウラジオストクを州都とする沿海地方は7700人の動員を計画している。

 抗議活動の激化について、マトビエンコ上院議長は25日、対象外の国民が招集されているとして地方政府に是正を要請し、「社会の強い反発は正しい」とSNSに投稿。ウォロジン下院議長も「間違いはただすべきだ」と指摘した。両氏はプーチン氏に近く、不満が収束しない状況に焦りがあるとみられる。(渡辺玲男)