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ウクライナ侵攻から1年 北方四島で政権称賛色濃く 当局は軍への支援PR/島民は異論口に出せず

 ロシアのウクライナ侵攻開始から1年が過ぎる中、遠く離れた北方領土で、プーチン政権が進める「特別軍事作戦」をたたえる動きが強まっている。地元政府は作戦に参加した兵士らを英雄視し、軍の支援とともに島の整備を進めることをPR。侵攻長期化への不満をかわす狙いとみられ、メディアも軍に協力する島民らの姿を盛んに宣伝している。人口の少ない島では島民も異論を口に出しづらく、作戦への協力を強いる空気がまん延している。(北海道新聞2023/2/27)

 侵攻1年の節目が近づいた21日。国後島のユジノクリーリスク(古釜布)に、同島と色丹島から軍事作戦に参加した兵士16人が集められ、軍幹部から「勇気勲章」を授与された。

 両島などを管轄するサハリン州南クリール地区行政府のゴミレフスキー地区長は、通信アプリ「テレグラム」で兵士をたたえると同時に、軍が駐留する国後島ラグンノエ(二木城)に、連邦政府光ファイバー回線を敷設する資金を出すと報告。「村民は夏には高速インターネットを利用できる」と誇った。

 北方四島を事実上管轄する州政府やプーチン政権与党「統一ロシア」の地元支部は、軍事作戦への支持拡大を図るため、軍への支援が島の生活環境の改善につながることを印象づけようとしている。20日には択捉島に駐留する軍の村ガリャーチエ・クリューチ(瀬石温泉)で、兵士向けに導入された健診車で村民らに無料健診を実施。通信社サハリンメディアは「(島中心部の)クリーリスク(紗那)に行く必要がなく、とてもいい」と喜ぶ島民の声を伝えた。

 地元メディアは侵攻当初は、四島関連のニュースは「戦時」を感じさせない報道が目立った。だが昨年9月に、プーチン政権が予備役を対象に部分動員を実施以降、「動員兵のために択捉島で50万ルーブルの募金が集まった」(10月下旬、択捉島紙「赤い灯台」)、「島民が兵士用の靴下を編み続けている」(11月末、サハリン・クリール通信)など、作戦に協力する島民の話題を続々と報じ始めた。

 部分動員などに批判的な報道を続けた州を代表する通信社「サハリン・インフォ」は昨年12月、当局にニュースサイトを遮断され、活動を停止。以降、ほぼ全ての地元メディアは、軍事作戦を支持する論調一色になっている。

 ウクライナ侵攻には、四島から駐留していた部隊のほか、部分動員で少なくとも70人が招集され、戦地などに投入されている。2月に入り四島の各地区行政府は軍と連携して志願兵も広く募っている。

 リマレンコ州知事は、州内から軍事作戦に参加した兵士の死亡を不定期に発表しており、地元ニュース運営者などの集計によると、侵攻開始から25日までに148人の死亡が判明。1月は22人、2月は36人と、最近になり急増している。ただ、リマレンコ氏は死者が動員兵かどうかを明かさず、出身地を伝えないこともあり、実態が分からない状況が続く。

 人口約1万8千人の四島では治安当局の監視も厳しく、島民は軍や作戦についてほとんど語ろうとしない。島民の一人は「軍や作戦については話さないと決めている。自分の身が危うくなるから」と語った。(渡辺玲男)