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北方四島「もう行けないのか」ビザなし、今年も見通せず

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 新型コロナウイルスの影響で、北方四島ビザなし渡航の実施が見通せない状況が続いている。5~6月に続き、7月の中止も決まり、9月に故郷の歯舞群島志発(しぼつ)島へ3世代での墓参を計画する根室市の木村芳勝さん(86)は「もう行けないんじゃないか」と不安を隠さない。2年連続の全面中止が現実味を帯びる中、洋上からの慰霊を模索する動きもあるが、島への上陸を願う元島民の思いは複雑だ。(北海道新聞2021/6/29)

 「足腰が悪く、あと数年で船に乗れなくなるだろう。その前に、生まれ育った島にもう一度行きたい」。これまで志発島を1974年から9回訪れた木村さんは、自宅で島の資料を見返しながら語った。

 木村さんは昨年も渡航を希望したが、コロナ禍でビザなし渡航北方領土墓参、ビザなし交流、自由訪問)は35年ぶりに全て中止された。それだけに今年は何としても息子、孫と一緒に参加を願っている。

 3世代での参加は、長男で落語家の三遊亭金八(本名・木村吉伸)さん(50)=東京都=が提案した。北方領土問題を落語で取り上げる金八さんは「元島民の祖父と島に渡った記憶は忘れないはず」と、長男太一君(8)も誘った。金八さんは「息子が将来、返還要求運動に関わったり、ロシアに関する仕事に就いたりするきっかけになるかもしれない」と期待する。

 今春、木村さんが金八さん家族と電話で話した時、太一君は「じいちゃん、島に行けるの」と尋ね、楽しみにしている様子だった。木村さんは新型コロナで渡航が難しい状況を伝え「コロナが収まったら島に行こうね」と約束した。

 木村さんが家族と島に渡りたいと願うのには理由がある。志発島を74年に最初に訪れた時に「草はぼうぼう。家の跡は何もない」と衝撃を受けたが、訪問を重ねるうちに、生家跡に子供の頃に見た黄色いスイセンが咲いていることに気づいた。海岸浸食で島の様子が変わる中、花だけが故郷の名残をとどめていた。「島に行くといろんなことを思い出す。若い人に、残されたものを見てもらいたい」

 今年のビザなし渡航は5~9月に計画した19回のうち9回の中止が決まった。日本政府は9月までの実施を目指すが、ロシア側でも感染が再拡大しており、内閣府関係者は「このままではかなり厳しい」と話す。

 道などは、島に上陸せずに船上から慰霊を行う「洋上慰霊」も模索している。だが、木村さんは「島のどこに何があったかは、上空や船の上からでは教えられない」と、上陸した形での実施を切望している。(武藤里美)

 

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