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日ロの人間愛、実話基に小説「舟」 ロシア人脚本家「今こそ読んで」 終戦直後の北方領土舞台

「人間の素晴らしさを伝えたかった」とオンラインで語る著者のマイケル・ヤングさん。手前は翻訳した樫本さん

 【根室終戦直後の北方領土歯舞群島志発島に敵同士だった日本人とロシア人が混住した時代の人間愛を描く小説の著者でロシア人脚本家のマイケル・ヤングさん(63)=ペンネーム=が、出版を前に市内で開かれたオンライン記者会見に出席し「国家関係が良い時代には心にあまり響かない話かもしれない。難しい今こそ読んでほしい」と思いを語った。(北海道新聞根室版2024/7/3)

 本は「舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語」(皓星社)で四六判320ページ。小舟に乗って沖に流されたロシア人の子どもたちを日本人漁師が救った実話をもとにした。

 記者会見は6月27日に市内の道立北方四島交流センター(ニ・ホ・ロ)で開かれ、ヤングさんは翻訳した樫本真奈美さん(44)と出席した。

 ヤングさんによると、執筆のきっかけは仕事仲間だったアンドレイさんから終戦後に志発島にいた母リュドミーラさんの話を聞いたことだった。リュドミーラさんは兄弟らと小舟に乗ったまま嵐が迫る海で遭難し、日本人漁師に助けられた。

 その日は島から日本人島民が強制送還される船が出る日だった。日本人漁師はその船に乗れず、収容所に送られる可能性があることを知りながらロシア人の子どもたちを助けに行った。

 リュドミーラさんは息子アンドレイさんに「日本人漁師とその子孫を探して」と言い残し他界。アンドレイさんはビザなし交流で日本を5回訪れたが見つけられず2020年に55歳で亡くなった。

 ヤングさんは「なぜ助けると決断できたのか。国籍が違っても変わらない人間愛に貫かれている」と作品に残すことにした。本には一緒に遭難したリュドミーラさんの姉から翻訳担当の樫本さんが聞いた話も入れた。

 ヤングさんは「日ロの民間の人たちで築いた協力関係を止めるべきではない。本で描いた時代は多くの人が戦争で死んだ直後でもっと厳しかった。国家関係が難しい今こそ多くの人に読んでもらい、この話を知る人も探したい」と話す。小説は2530円。7月10日に全国発売する。映画化も目指すという。