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北方領土墓参再開「法的な検討必要」 反ロ路線なら対話復帰困難 駐日ロシア大使書面インタビュー

ロシアの新しい駐日大使ニコライ・ノズドレフ氏(52)が北海道新聞の書面インタビューに答えた。ロシアのウクライナでの「特別軍事作戦」の開始後、日ロ政府間の関係が悪化した現状にいて「日本政府が反ロシア路線をやめない限り、本格的な対話に復帰することはあり得ない」と厳しい姿勢を強調。北方領土墓参については、人道的な理由から1986年の政府間協定に基づくビザなし渡航の枠組みを維持していると明言した。ただ、「自動的に再開されることを意味しない」と述べ、ロシア外務省が「法律的な検討を行っている」と指摘。ロシアの現行法との調整が必要だとして、早期の再開は困難との認識を示した。ノズドレフ氏は3日に来日。書面インタビューは赴任前の2月下旬に回答した。(北海道新聞2024/3/5)

日ロ関係の現状 駐日ロシア大使に聞く ノズドレフ氏書面インタビュー

(北海道新聞2024/3/5)

 ロシアのニコライ・ノズドレフ駐日大使(52)が北海道新聞の書面インタビューに応じた。主な一問一答は次の通り。

 ――ウクライナでの特別軍事作戦が始まった後、日ロ関係の状況は大きく変化した。現在の日ロ関係の現状をどう評価しているか。新しい駐日ロシア大使としてどのような点に重点を置いて取り組むか。

 「2022年2月の特別軍事作戦の開始以来、日本政府は欧米が主導する反ロシアキャンペーンに積極的に参加してきた。ロシアに対して違法な制裁を科し続け、貿易上の優遇措置を撤回した結果、両国の貿易高は激減し、ビジネス上の交流が中断された。ロシア極東国境付近で米国や他の北大西洋条約機構NATO)加盟国との共同軍事活動が強化され、ウクライナ政権に直接的な物資、技術援助が提供されている」

 「数十年にわたり骨の折れるほどの努力の末に築き上げられたロ日関係の基盤そのものが破壊された。現時点では建設的な協力関係に回帰する展望は見られない。日本政府が実際に非友好的な政策をやめない限り、ロシアは自国の利益のみを踏まえ、日本に対して最大限に厳しく敏感な対抗措置で対応し続けざるを得ないだろう。駐日大使として、世界的・地域的な議題に関するロシアのアプローチを一貫して説明していくとともに、ロシアにとって関心のある問題について日本側との接触を維持し、在日ロシア人の権利を守るつもりだ」

 ――隣国である日ロ間で政府間の対話がほとんどなくなっている現状をどう受け止めているか。専門家や民間レベルの対話の可能性をどう考えるか。

 「ロシア側は2国間の接触や協力を抑制するような積極的な措置を取っていないことを理解することが重要だ。日本政府が言葉ではなく、実際の行動で反ロシア路線をやめない限り、本格的な対話に復帰することはあり得ない」

 「専門家や一般市民のレベルでの交流については、経済、文化、人道、その他の分野を問わず、ロシアはそのような接触を一度も妨げたことはない。われわれは常に日本国民に心からの敬意を払い、良き隣人にふさわしい互恵的な協力に努力してきた。このような交流のチャンネルが効果的に機能するためには、適当な状況が整えられなければならない。岸田文雄政権の政策によって良き隣人とはほど遠いままである2国間関係の雰囲気そのものを変えなければならない」

 ――ロシア外務省は2022年3月に日本との平和条約交渉を継続しない声明を表明した。将来的にどのような状況が整えば交渉を再開することが可能か。日本による対ロ制裁の解除も条件になるか。

 「ロシアが日本との間で交渉してきたのは平和条約についてではなく、現代の現実に即した平和、友好、善隣に関する本格的な包括的文書であることを、まずは強調しておきたい。それは、貿易・経済やその他の実務的な分野における協力を大規模に拡大させ、主要な国際問題や地域問題に対する両国のアプローチを接近させる意志を示すなど、ロ日関係全体をあらゆる範囲で加速度的に発展させるための基礎を築くためのものだ」

 「公然と非友好的な立場をとっている国と、このような文書を話し合うことは間違いなく不可能になっている。対ロ制裁を含む日本の現在の反ロシアの路線は、日本との長期的な関係構築に向けたロシアのアプローチに直接影響することは明らかだ。これまでのところ、日本がこのような路線から脱却する兆しも、現況を是正しようとする試みも見られない」

 ――北方領土への元島民の墓参は、旧ソ連時代から続いてきた人道的な枠組みで、高齢化する元島民は再開を切望している。1986年の政府間協定は現在も有効だが、再開に向けたロシア側の立場や考え方は。今年再開できる可能性はあるか。

 「ロシアは人道的な理由から1986年の政府間協定に基づくビザなし渡航の形式を維持している。しかし、これは南クリール諸島(北方四島)の日本人墓地への訪問が自動的に再開されることを意味しない。訪問を実施する手続きをロシアの現行法に合ったものにする必要があるためで、ロシア外務省は2023年3月に日本側にこのことを通知し、現在この問題に関する法律的な検討を行っている」

 「なお、ロシアへの訪問は日本国民に閉ざされていない。南クリール諸島を含むわが国領土内にある先祖の墓参りを希望する人は、ロシアのビザを取得すれば一般的に訪れることができる。唯一の障害は、日本政府の立場だ」

 ――北方四島周辺での日本漁船の安全操業や北方領土貝殻島周辺のコンブ漁、地先沖合漁業など、隣接地域での漁業協力の意義や展望をどう考えるか。

 「ロシアと日本の漁業関係には長い歴史があり、相互利益によって特徴づけられてきた。国交回復直後に締結した最初の協定は、まさにこの分野に関するものだった。両国は隣国であり、日本海オホーツク海、太平洋に面しているのだから、これは当然のことだ」

 「1998年の協定(安全操業)と1981年の協定(貝殻島コンブ漁)は、ロシアの領海で日本漁船の操業を認めており、漁業分野における2国間関係の中で特別な位置に置かれている。両協定には、両国間の善隣友好の強化を促進するという両国の意志が記されているが、現在の日本政府の非友好的な政策はこれらの合意に反するものだ。現在、1998年協定の枠内でのみ操業が停止されているが、日本の漁業者によるいかなる違反も協定の今後の履行を疑わせるだけでなく、シグナーリヌイ島(貝殻島)地域のコンブ漁の運命にも影響を及ぼす可能性があることを強調したい」

 ――サハリンプロジェクトをはじめとする日本とのエネルギー協力の現状をどう評価しているか。ロシア側の発表によると、近く北極圏の液化天然ガスLNG)開発事業「アークティック2」からの出荷が始まる見通しだが、事業に参加する日本側とどのように対話を進めていく考えか。

 「ソ連、そしてその後のロシアと日本の燃料・エネルギー分野における緊密な互恵協力は、2国間関係の中で特別な位置を占めている。サハリン2からのガスの出荷は、福島第1原発事故の数年前、日本の原発がフル稼働していた時期から始まっていたことを思い出してほしい。2011年の自然災害と人災の後、ロシアは日本のエネルギー業界を支援するため、追加のガスを割り当てた」

 「岸田政権はサハリン1、サハリン2の枠組みの中で、エネルギー分野でロシアと協力を続けることが国益にかなうと主張している。加えて、北極圏のアークティック2は日本のエネルギー安全保障上、特に重要であると日本政府は認識している。それにもかかわらず、2023年11月に米国は日本と調整することなくアークティック2に対する制裁を科し、今後の事業参加が問題化した。サハリンプロジェクトにも同様の運命が待ち受けている可能性は否定できない。エネルギー分野やその他の実務的な問題についての日本との協力については、建設的で現実的な対話や、既存のプロジェクトの発展や新たなプロジェクトの創設についての議論を拒否していない」

 ――日本側の統計によると、2023年に日本を訪れたロシア人は4万2千人で、コロナ禍前の水準には戻っていないが、前年の3倍に増加した。また、日本とロシアの文化交流も続いている。日ロ間の人的交流を維持する重要性をどう考えているか。また、交流の拡大に向けて日本とロシアの航空便の運航再開を求めていく考えはあるか。

 「人的交流は、観光に限らず、科学、文化、教育、スポーツの分野における地域間のつながりも含め、相互理解を深め、善隣関係を維持し、他の分野での建設的な関係の基礎を築くことに貢献する。これは双方向の道でなければならない。確かに、日本を訪れるロシア人の数は徐々に回復しており、われわれはこのような動きを歓迎する。しかし、2023年にさまざまな目的でロシアを訪れた800万人以上の外国人のうち、日本人はわずか4千人程度だ」

 「こうした状況は、当然ながら地域間の結びつきを弱め、北海道とロシアの自治体交流は、つい最近まで高いレベルで密接に行われていたが、ほとんど消滅してしまった。こうしたことは、ロシアで日本との関係構築への関心が失われ、現実的なパートナーとの交流を優先するということにつながる。2022年2月までロシアと日本の間の直行便は五つ以上の路線があったが、今は1本もない。われわれが知る限り、ロシアの航空会社も日本の航空会社も直行便の再開に関心を持っている。ロシア側は日本の航空会社に対して空を閉じていない」(本紙取材班)

         ◇

ニコライ・ノズドレフ 1971年生まれ。94年にモスクワ国際関係大を卒業し、外務省に入省。日本語と英語が堪能で、在オーストラリア大使館公使などを経て、2015年から日本などを担当する第3アジア局次長、18年から第3アジア局長を務めた。22年11月に前任のミハイル・ガルージン氏が離任して以降、空席になっていた駐日大使として今月3日に日本に到着した。

■日本政府の主張は

 日本政府は、ロシアのウクライナ侵攻は力による一方的な現状変更であり、「国際秩序全体の根幹揺るがす暴挙」だと非難している。ロシアの侵略を止めることが優先課題だとして、米国や欧州主要国と連携してウクライナへの支援とともに対ロ経済制裁を続けており、日ロ関係の悪化は侵攻を続けるロシア側に全面的な責任があると主張している。

 岸田文雄政権は、ロシアとの平和条約交渉については「北方四島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持していく」と繰り返しており、平和条約の締結は北方領土問題の解決が前提という立場だ。四島交流事業の再開は日ロ関係の最優先事項であり、元島民らの墓参の再開を重点的に求めるとしているが、「ロシア側から肯定的反応は得られていない」と説明している。