北方領土の話題と最新事情

北方領土の今を伝えるニュースや島の最新事情などを紹介しています。

国後島・荒島 クリル自然保護区のソコフさんが「極東ヘクタール」で所有権取得

国後島のクリル自然保護区で上級国家検査官を務めているドミトリー・ソコフさんが国後島の太平洋側にある小島「ロガチョフ島 (荒島)」を「極東ヘクタール」の制度を使って取得したという。ソコフさんは、知床観光船沈没事故で国後島に流れ着いた乗客の遺体を発見した人であり、全大陸の最高峰を登頂した登山家として、さらにはガラス製の浮き球の収集家としても知られる。数万羽の水鳥のコロニーがある島をなぜ取得したのか。Komsomolskaya Pravdaクラスノヤルスクのニュースサイトに、興味深い記事があった。「ビジネスのためではなく、保護するために取得した。将来は特別な自然保護区にしたい」と語っている。ちなみに、荒島は1945年11月初め、ソ連軍に占領された島から脱出を図ろうとした島民を乗せた船が嵐のために遭難し、6人が命を落とした場所である。

太平洋にある島の所有権を取得した最初のロシア人

(Komsomolskaya Pravdaクラスノヤルスク2023/4/12)

 国後島の住民であるドミトリー・ソコフは、太平洋に浮かぶ小さな島を所有した最初のロシア人になった。彼はクリル自然保護区で 30 年間働いており、水鳥のコロニーがあるロガチョフ島 (※荒島) は、彼にとって常に大切な島だった。2017 年、ドミトリーは連邦プログラム「極東ヘクタール」の申請をした。

どうして島なのか?

 「極東ヘクタール」は、2016 年 6 月 に施行された。極東の開発に市民の関心と資本を引き付けるのが目的だった。そこには広大な土地があり、地元住民と移住者に無料で分配することができる。家を建てて住むこともできれば、農業やビジネスに活用することも可能だ。 最初の数か月で数十万件の申請があったが、時間がたつにつれて落ち着いた。区画を取得するだけでは不十分で、計画を実現する必要があった。

 ドミトリーは「無料で土地を与えるというなら、活用しない手はない」と考えた。提供される土地のリスト見直すと、「自然保護地域」という項目があった。「私にとって、このテーマは身近なものであり、何ができるかを理解した。私は海辺に住んでおり、コーヒーを手に窓辺に行くとロガチョフ島が見えた。距離は 25 kmもない。何度か行ったことがある。約 2 ヘクタールしかない小さな島だが、何万羽もの鳥が生息し、ヒナを育てている。ツノメドリだけでも 25,000 羽はいる。そしてメガネウミウシ、2 種類の鵜(日本とウスリー)、カモメ、オジロワシやミサゴもいる」--。ロガチョフ島はクリル諸島(※北方四島を含む千島列島)で最大の鳥のコロニーの 1 つである。そして、クリル自然保護区の職員であるドミトリーは、この島のすべてを彼の翼の下に置くことにした。--ビジネスを行うのではなく、保護するために。

国後島を選んだ理由

 55 歳のドミトリー・ソコフは世界の果てで暮らしているが、それは意識的な選択だった。 ウラジミール地方出身で、80年代後半にモスクワの食品産業研究所を卒業し、水生生物資源と水産養殖の学位を取得。ソビエト時代の学生には卒業証書を受け取った後、3年間遠く離れた場所で働く義務があった。「私自身は騒々しい文明から離れたいと思っていたので、自分にふさわしい場所を選んだ」--。彼は地図を指さして「そこで働きたい」と言った。そして33年間、国後島で暮らすことになった。魚類保護検査官として3年間働いた後、クリル自然保護区で働くようになった。

 現在、彼はクリル自然保護区の保護部門の上級国家検査官を務めている。「人間から自然を守る仕事。もちろん密猟者と定期的に対峙している。えっ、日本? 北海道と国後島は25㎞しか離れていない」--(日本人は国後島は自分たちのものだと思っているが)ドミトリーはそのことに触れなかったし、我々も尋ねなかった。

 極東ヘクタールの申請はロシアのどこにいてもオンラインで行うことができる。手続きは最大2週間程度。承認を得たら、区画が属する地区の管理者と5年間のリース契約を締結する。すべてがシンプルである。しかし、3年半後に活動の結果を示す必要がある。手に入れた区画で何をすることができたか? それは祖国があなたに託した土地に値するか? ドミトリーはすべてを細部まで検討し、すべての要件を満たし、今では島の完全な所有者になった。申告書には、どのような費用が発生し、どのくらいの収入があり、税金をいくら支払ったかを示す必要がある。うまくいけば1年半後にあなたは土地の所有権を受け取ることが出来る。ドミトリーは毎年、クリル自然保護区やロシア科学アカデミーと協定を結んだ。彼は鳥類の研究者をこの島に連れてきた。

    ドミトリーは観光客から収入を得ている。モーターボートを購入し、旅行代理店と契約を結び、観光客を連れてきた。訪れる人は年々増えており、十分な仕事がある。観光客はボートで島を一周し、鳥を観察する。双眼鏡を持っている人、強力なズーム機能を備えたカメラを持っている人。イルカ・ウオッチングもプログラムに含まれている。運が良ければ7月~9月にはクジラと出会うことも出来る。そして最後は温泉。4〜5時間のコースで5,000ルーブル。燃料費 (現在は 1 リットルあたり 80 ルーブル) を考えると、価格はかなり控えめだ。「島に上陸して歩くことはしない。背の高い草の中を歩いて、ヒナを踏んづけてしまう。せいぜい岩の多い海岸にちょっと上陸することくらいだ。バードウォッチャー向けの何らかの設備を整備する予定だが、それ以上のことはしない。エコトレイルも設けない」

 ドミトリーは島の半分を自分の所有とし、残りは未成年の娘の名義にしている。今、彼は自分の島に法的地位を与え、公式に特別に保護された自然地域にしたいと考えている。1984年に開設されたクリル自然保護区になぜロガチェフ島が含まれなかったのか。ドミトリーはこれを修正したいと考えている。しかし、ロシアでは民間の自然保護区の創設を規定していない。「私は世界中を旅し、すべての大陸を訪れた。どこも美しくて素晴らしいが、国後島は何物にも代えがたい特別な場所だ。温暖で快適な気候、美しい生態系があり、どこでも自然の水を飲むことができる」

山は自分を試す場所

 すべての大陸の頂点を征服した人を何人知っているか? 100人に満たないだろう。ドミトリーは南アメリカアコンカグアと北アメリカのデナリやヨーロッパのエルブルス、世界最高峰のエベレストに登った。南極大陸のヴィンソン・マシフにも登頂した。「私は有名な登山家ではない。個人的な興味から行っただけ。登山始める前はダイビングをしていた。世界中を旅した。2007 年、40 歳になり、キリマンジャロ登山とケニアタンザニアでのサファリのツアーに参加した。山では体の働きが全然違うので、本当に大変だった。とても難しかったので、もう一度やり直そうと決めた。私にとって山とは、自分を克服すること。ちなみに前回ヒマラヤに行ったのは去年の11~12月。メラピーク (標高 6476 メートル) のとても美しい場所を教えてあげようか。いつでも自分のために何か面白いことをする準備は出来ている」