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<2月7日北方領土の日>変わる四島 かすむ返還 コロナ禍で観光特需 過大投資に不満も

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 ロシアが実効支配する北方領土は、新型コロナウイルスの影響で海外旅行を諦めたロシア人に、代替の観光先として人気が高まっている。北方四島を事実上管轄するサハリン州政府は好機ととらえ、壮大なリゾート開発構想を打ち上げ、インフラ整備もアパートや商業施設などの建設ラッシュが続く。だが、コロナ禍の経済悪化で州予算が大幅に減少する中、人口が少ない四島への巨額投資などに批判の声も出ている。(北海道新聞2021/2/7)

 地元メディアや住民によると、ロシア政府が国内旅行の費用を補助するロシア版「Go To キャンペーン」に合わせ、州都ユジノサハリンスクと国後、択捉両島を結ぶ航空路線を増便。島民は感染拡大を懸念したが、モスクワなど大陸から海外旅行に行けない人が四島に流れた。択捉島には年末年始に約100人の観光客が訪れ、パウダースノーのスキーや指臼山(バランスキー火山)の温泉などを楽しんだという。

 これまで冬季は観光客が少なかったが、択捉島中心部の紗那(クリーリスク)のホテルは「ほぼ満室状態」とコロナ禍で思わぬ特需に沸く。需要拡大を見据え、州政府が描くのが「択捉リゾート」構想だ。指臼山の麓に五つ星ホテルを含む計700室の宿泊施設を建設し、ケーブルカーを備えたスキー場やゴルフ場、ヤースヌイ空港からの舗装道路、クルーズ船用桟橋などを整備。総事業費240億ルーブル(約330億円)を見込み、民間に150億ルーブルの投資を呼び掛けている。

 国後、色丹、択捉各島はこの1年、ロシア政府の「クリール諸島(北方領土と千島列島)社会経済発展計画」でインフラ整備も進み、アパート10棟以上を新築した。色丹島の斜古丹(マロクリーリスコエ)では道路1・2キロが舗装され、文化会館が完成間近という。商業施設も紗那に家電と日用品の量販店が開店し、国後島の古釜布(ユジノクリーリスク)に初のショッピングセンターが建設中だ。

 各島とも高速インターネットが利用できるようになり、島民は「夢のようだ」と生活環境の改善に喜ぶ。将来的にエネルギーを液化天然ガス(LNG)に転換するため、受け入れ基地の建設計画も浮上している。

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 コロナ禍で、昨年は日本人が北方四島を訪れるビザなし渡航が全面中止となった。墓参も含めて1回も行われなかったのは、1985年以来35年ぶり。四島での日ロ共同経済活動に向けた協議も滞る中、ロシア単独の開発が進み、日本の存在感はよりかすんでいる。

 ただ、四島開発は国家プロジェクトでありながら、財源の約9割を州政府と民間投資で賄っているのが現状だ。新型コロナの影響で、2021年の州予算は歳入が約3割減の財政難で、人口が集中するサハリン本島の住民からは四島への重点配分に不満も上がる。

 地元通信社サハリン・インフォは、本島の未舗装道路の整備状況と比べ「優先順位はどちらが上なのか。答えは明らかだ」と論評。四島の島民からも「これまでも壮大な計画はあったが何も実現していない」と冷ややかな声が出ている。

 <ことば>北方領土の日 2月7日は、1855年に日露通好条約が結ばれ、択捉島とその北のウルップ島(得撫島)の間に初めて日本とロシアの国境が画定された日に当たる。北方領土返還運動を啓発、推進するため、政府が1981年に閣議了解で制定。例年、全国各地で関連行事が行われている。(ユジノサハリンスク仁科裕章)

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