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元島民ら北方領土交渉の停滞懸念「振り出しに…」ウクライナ侵攻

 ロシア軍のウクライナ侵攻で、日露の北方領土返還交渉のさらなる停滞を懸念する声が元島民から上がっている。新型コロナウイルスの感染拡大で2年連続中止となった北方四島交流事業にも影響が出る可能性があり、平均年齢86歳(昨年3月末時点)の元島民の不安は増している。(毎日新聞2022/2/25)

 「領土問題の解決は遠ざかるどころか振り出しに戻ってしまった。我々が生きている間の進展はない」。北方領土色丹島出身の飯作(はんさく)鶴幸さん(79)=北海道根室市=は、ウクライナ侵攻のニュースを見て絶望的な思いにかられた。

 飯作さんはこれまで「領土問題はどういう形になろうと平和裏に解決し、生まれ故郷に自由に行き来できる日が来る」と思っていた。だが、圧倒的な軍事力でウクライナを攻撃したロシアを前に、「(戦後の77年間)一体何をやってきたのだろう」と感じたという。

 サンマの大型船2隻で現在も漁業を営む飯作さん。「北方領土周辺水域の安全操業や、サンマなどの日露漁業交渉にどういう影響が出るか想像もつかない。ビザなし交流だってどうなるか分からない。ひずみは必ず弱いところに出る。それが国境を接している地域の宿命だ」とも語った。

 「いずれロシア人と一緒に住む日が来る」と考え、70歳を過ぎてからロシア語を勉強してきた択捉島出身の鈴木咲子さん(83)=同市=はウクライナから脱出しようとする車で道路が渋滞する映像を見て、自らの引き揚げ体験と重ねた。「私たちが島を追われた時も大変だったが、祖国から出て行かなければならない年寄りや子供たちを思うと胸が締め付けられる」と語った。

 中断しているビザなし交流などの四島交流事業については「新型コロナが収束に向かうかと思っていた矢先の侵攻。人道的な観点から行われている墓参も、今年はどうなってしまうのか」と不安にかられている。

 一方、択捉島出身の三上洋一さん(84)=相模原市=は「軍隊を送り込んで占領し、国内法で編入の手続きを進めるやり方は北方領土の占領とよく似ている」と指摘したうえで、「ここで異を唱えておかないと、四島が日本の領土だと主張できなくなりかねない」と危機感を募らせた。【本間浩昭】

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民族衣装のロシア島民と記念写真を撮るビザなし日本側訪問団=北方領土色丹島で2019年7月6日