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チェルネンコへの手紙 (北海道新聞「朝の食卓」2024/3/27)

 小さく折りたたまれた白い便箋が、根室市の実家から持ってきた仏壇の引き出しの奥に入っていました。

 広げてみると、父方の祖父の字。祖父は明治28年(1895年)、滋賀県生まれです。

 子どもの頃に母を亡くし、大阪の商店ででっち奉公をしたそうです。習字のお稽古に行きたかったけれど、奉公先でそんな願いはかなわなかったと話していました。

 達筆というのではないですが、大きくて堂々とした字で「ソ連様にお願ひ」と書かれています。旧ソ連共産党チェルネンコ書記長に宛てた出されることのなかった手紙です。

 「日本の北方領土全部返還して頂きソ連様と日本は真の親族となって頂き、何事も共同の責任で仲良く温かい国家を築き上げソ連様と日本は益々繁栄致します」

 90歳で亡くなる少し前、記憶があいまいになっていた頃に書かれたものでした。思い出すのは、大阪からの商品を背負って渡ったにぎやかな島のことだったのでしょう。

 「おじいちゃんったら、一日中、何度もソ連へ手紙を書いているんだよ」と祖母が教えてくれたのを思い出しました。

 祖父はどこへ行きたかったのか姉の名を呼ぶと「停車場へ連れて行ってくれ」とよく言っていました。姉と二人外を歩き、疲れると潮風のあたる喫茶店へ入りコーヒーに角砂糖を三つ入れ静かに飲んでいたそうです。祖父が手紙を書いてもう40年です。(主婦・室蘭)