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北方領土元島民「死ぬ前にもう一度故郷に。それもかなわないかも」ウクライナ侵攻終結願う

 【根室、標津】ロシアのウクライナ侵攻が24日で1年となり、北方領土に隣接する根室管内の元島民らは、故郷を追われたウクライナ人の姿に自らの経験を重ね、戦況を見つめている。犠牲者が増え続ける中、戦闘行為の終結を願う気持ちは強まるばかりだ。北方領土墓参など四島との往来も見通せない状況が続き、高齢化する元島民は焦りを募らせている。(北海道新聞2023/2/25)

 択捉島出身の長谷川ヨイさん(91)=根室市=は侵攻が長引く状況に心を痛める。78年前の第2次世界大戦終戦直後、択捉ではソ連兵が日本人を銃で撃ったり、暴行したりという事件が起き、日本人は住み慣れた故郷を奪われた。ウクライナでの戦闘行為は当時に重なり、「戦争は長引くほど街は壊れ、人の心もひずむ」と早期終結を願う。

 旧ソ連占領下の択捉で出会い、交流を深めたウクライナ出身の友人の姿も脳裏に浮かぶ。「家族や子孫、多くの人が怖い思いをしているのではないか。助けに行きたいくらい心配だ」

 ロシア側は昨年9月、ビザなし渡航の三つの枠組みのうち自由訪問とビザなし交流の合意を破棄。日本側は、ロシア側が政府間合意を唯一破棄していない墓参も含め「展望を語れる状況にない」とする。新型コロナウイルス禍の影響も含め、四島に渡れない状況は丸3年に及ぶ。国後島出身の岩松昇さん(83)=標津町=は「死ぬ前にもう一度、故郷の地を訪ねたい。ウクライナ侵攻の問題で、それもかなわないかもしれない。戦争は今も昔も人を不幸にする」と下を向く。

 千島歯舞諸島居住者連盟(札幌)は、厳しい日ロ関係が続く中、例年2月に元島民に届けてきた墓参などの参加意向調査用紙を送れない状態になっている。色丹島出身の木根繁さん(85)=根室市=は「調査用紙が送られてくるだけでも、古里に行く機会があるという希望のともしびになる。それすら届かないのは寂しい」と嘆いた。(武藤里美、森朱里)